井上 行き交う情報量が増えていますから、ますますその傾向は強まっていると言えるでしょう。

 人間の仕事をモデル化すると、(1)情報をインプットする、(2)インプットした情報を処理する、(3)処理した結果をアウトプットする、という3段階に分けられます。

 この中では特に(2)の処理の部分がとても大事です。集中することで情報を処理し、(3)のアウトプットとして付加価値を付けなければなりません。もしそれができなければ、人は「あの人がああ言っていました」と答えるだけの“情報ルーター”になってしまう。

――先ほど挙げられたDeep Thinkとは、(2)の処理で付加価値を与えることを意味するわけですね。

井上 はい。興味深いことに、グーグルのようなデジタル時代のコミュニケーションを司っている会社が、社員にはマインドフルネスを推奨しています。マインドフルネスにおいて重視しているポイントの1つが、外部からの情報をあえて遮断して自分の心の動きを観察することです。デジタルコミュニケーションを先導するグーグルこそが、集中して深く考える機会が減っているこの状況に対して危機感を強く抱いているのかもしれません。

 もちろんコミュニケーションが重要でないというわけではありません。一人で集中すべき時は集中し、他者とコミュニケーションすべきときはコミュニケーションする。このバランスと組み合わせが大事だということです。

働き方を改革したいなら集中力が大切

――日本では「働き方改革」を旗印に、官民で様々な取り組みが進んでいます。ただ、働き方改革は多くの場合、時間の議論になりがちです。残業を減らすとか、あるいは時間単位当たりの生産性をアップするといった内容です。

井上 ただただ生産性を上げようとするとか、残業を削減するといった観点だけでは、アウトプットの本質的な向上は見込めません。同じ1時間の価値を高めるためにも、この集中力の観点は欠かせません。