そして何よりも異端と言えるのは、店長がいないことだ。2012年に店長の役職を廃止した。河村氏は「店長がいない自動車ディーラーは、全国でここだけではないでしょうか」と語る。

 だが、カワムラモータースはこうした常識破りの組織であるにもかかわらず、優秀な経営成績を誇る。たとえば、社員1人あたりの生産性(粗利益)は、他の小規模自動車販売店(カワムラモータースと同程度の規模のディーラー)の約1.4倍である。一般整備(車検以外のオイル交換、タイヤ交換などのメンテナンス)来場台数は約2倍の数字を叩き出している。

 同社の経営手法は全国的にも高く評価されている。2008年にハイ・サービス日本300選に選出され、2011年には福井県経営品質賞知事賞を受賞。2016年には日本経営品質賞(中小企業部門)を受賞した。

売り切りの商売では立ち行かなくなる

 河村氏は2006年に創業者である父親を継いで社長に就任した。32歳の若さで経営を引き継いだ河村氏は、地方の自動車ディーラーがきわめて厳しい環境に置かれていることを覚悟していた。地方都市は少子高齢化と過疎化が進み、自動車市場は縮小する一方である。

 そうした中でどうすれば生き残っていけるのか。河村氏が導き出した回答は、メンテナンス事業の強化に舵を切ることだった。

「今までディーラーの商品は主に車を売ることと車検の2つでした。でも、これからは人口が減少して、車が売れなくなっていきます。“売り切り”の商売をしていたら立ち行かなくなるのは目に見えていました。

 また、大学卒業後に東京のあるホンダディーラーで修業していたとき、お客様には『車を大切に使いたい』『きれいな状態で長く乗りたい』というニーズがあることを強く感じていました。けれども、これまでディーラーはそういうニーズに応えようとしていませんでした」