「禁酒」運動が始まったのは、「産業革命」時代の19世紀英国である。禁酒運動を主導したのはプロテスタント系のキリスト教の団体である。だが、禁酒運動の普及を積極的に後押ししたのは、企業経営者たちだった。

 企業経営者たちにとって、不良品発生を減らし、生産性向上を図るため、職場に規律を導入し、労働安全衛生を向上させることが合理的な経営判断とみなされたからだ。大量生産(マスプロダクション)は米国で誕生した生産システムである。それを支えたのが職場の規律と労働安全衛生であったことは、人事管理に関するマネジメント思想の歴史を振り返ってみれば理解できるはずだ。

 19世紀英国から始まった禁酒運動は20世紀の米国にも拡大していったが、その背景にはキリスト教の要素だけでなく、労働問題への対応という側面もあったのである。

アルコールは一滴も飲まないトランプ大統領

 さて、米国のトランプ大統領とそのファミリーは、アルコール類を一切飲まない。この点に関しては徹底しているようだ。少なくともアルコールが原因で判断を誤ることはないと見てよい。

 トランプ大統領が、実業家時代からアルコールを一滴も飲まないのは、判断を曇らせるだけでなく、誤らせることがあるというのがその理由だ。

 だが、もっと深刻な理由があるらしい。仲の良かった実の兄はパイロットであったがアルコール依存症に苦しみ、43歳の若さで心臓発作で亡くなったのだという。生前の兄は、「酒を飲むな!」と何度もトランプ氏に厳命していたそうである。