ソフトウエア開発ではSIerのPM(プロジェクトマネジャー)と呼ばれる役割が重要であるが、若くしてこの職種についた人材はプログラミングや設計をする経験が少ないので、中身がよく分かっていない(ITについての足腰がない)ことが少なくない。それにもかかわらず、プロジェクトのスケジュール線表管理、発注業務、顧客との交渉、成果物の受け入れと複数ベンダーの調停などに精力を傾けなければならないのだ(もちろん、これらは大規模プロジェクトの中ではきわめて重要な仕事である)。

ネットビジネス企業が先導したアジャイルの導入

 SIer側もユーザー企業側も、このままでよいと考えているわけではない。

 日本のSIerの中には、2000年代初頭から草の根的にアジャイル開発に取り組むチームが存在している。筆者はオブジェクト倶楽部(オブジェクト指向開発周辺のコミュニティ、現オブラブ)XP-jp(アジャイル手法XPのコミュニティ)といった小さなコミュニティを2000年から運営しながら国内のエンジニアとの関係づくりをしてきた。その中には富士通、NEC、パナソニックといった大企業の中にいながら参加・実践に取り組んでいた方々もたくさんいる。

 2009年から始まる事例発表コミュニティであるアジャイルジャパンでは、SIerの中でのアジャイルの事例が毎年発表されてきた。しかし、上記の産業構造と契約の壁に阻まれて、その成果はなかなか表舞台に出てこなかった。

 一方、最近になって楽天や、Yahoo! Japan、GMO、リクルートの多くの子会社など、Webサービス、ネットビジネスを中核に成長する企業が増えてきている。

 いずれも、早くからアジャイル開発を取り入れたり、リーンスタートアップ型のプロジェクトを平行して走らせたりしながら、企画と開発の一体化を進めていた企業である。また、ビジネス資産としてのソフトウエア、技術的卓越性を大切にし、CTOを明示的に置いているのも特徴だ。

 こうした動きが出てきたのは、Webを使ったビジネスが多く登場するようになったことが大きい。ユーザー企業とIT企業のどちらにも属さない、ネットを使ったサービスを提供する会社が多く現れたことと軌を一にしている。

 こうして日本のアジャイル開発は、早くからデジタルビジネスをコアコンピタンスとして認識したネットビジネス企業の間で広がったと言える(ここではSIerは取り残された)。