評価や報酬は時間ではなく成果でシビアに決める

——ワーキングマザーを雇うことが企業にとって有効である、と。

ビル もちろん。子育てそのものが最高の人材育成の場ですからね。親は、家庭という組織の中でのリーダーでありオーガナイザーでもある。緊急事態に対応しマルチタスクをこなすこともできる。こうした能力はとても重要です。何度も言いますが仕事に大切なのは勤務時間の長さではない。どれだけ仕事にコミットし、集中できるかです。

——レザーマン氏以外の社員にも同じようなフレックス体制をとっていますか?

ビル ベッツィーは我が社のプレジデントという立場もあり、職務の関係もあるので、そのフレックスさは極端かもしれない。でも多くの社員に対してテレワークやフレックスタイムの導入は行っています。また我が社には、正社員だけでなく契約社員やパートタイムでの勤務を希望する従業員も多く、彼らにはもちろんその取り組みの中で、できるだけ働きやすい時間帯を従業員本人が選べるように話し合いをしています。

——仕事は時間ではなく成果、ということですが、勤務時間が短い従業員に対し、評価や報酬はどのように取り決めるのですか。

ビル 週3日15時間勤務のパートタイム従業員と、週5日40時間勤務の正社員とでは報酬額は違います。ただ、例えば、フルタイムであっても、週に30時間働くか40時間働くか、残業して70時間働くかは個人の能力によるものです。給料の基準は時間では変わりません。評価や報酬は、利益をどれくらい生んでいるかということはシビアに見て決めていきます。しかし、あまりに長時間働く人はいい結果を出せませんね。我が社だけでなく、100社以上のクライアントを見てもそれは明らかです。

——長時間勤務が成果の妨げになるということですか。

ビル それほど多くの時間と熱意が必要な仕事というのは、正直ありませんよ。家庭や人生で大切な他のことを全て犠牲にしてまで、仕事を優先させるという働き方には必ず限界がある。クリエイティビティも、その人が本来持つ才能や能力も発揮できなくなり、結果が悪くなる。これはもう、明らかです。

 一人ひとりの従業員に敬意を払い、彼らの置かれた状況や人生を理解し、板挟みで苦しめることをできる限り避ける。それが経営陣にできる唯一のことです。そうすれば、結果は必ずついてきます。無駄な長時間労働をする従業員を増やすより、時間に制約がある従業員に集中して結果が出す環境を提供する方が、これからの企業は必ず伸びると信じています。

労使双方が歩み寄ってこその働き方改革

 働く母親を支援する職場環境を整え、経営陣の意識を改革することが、結果として企業の利益につながるというウィリアム・アダムズ氏。

・ 自らの「境界線」を社員自身が理解し、勤務時間やキャパシティを設定する。
・ 時間に制約がある状況でも仕事に集中する環境を企業側が提供する。
・ 板挟みによるバーンアウトを避けるため、企業側こそが、歩み寄る。

 こうした経営陣、従業員双方からの変革アプローチがあれば、ベッツィー・レザーマン氏の体験から分かるように、専業主婦を経験した人材でも十分な結果は生み出せると言えるだろう。

 アメリカのグローバル企業の一例が、日本の多くの女性たち、企業の働き方改革につながることが期待される。