2018年の原油動向、鍵を握るのはサウジアラビア

戦後最大の石油危機勃発のリスクに備えよ

2017.12.22(金) 藤 和彦
    http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/51917
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 サウド家は、「メッカとメディナというイスラムの二大聖地の守護者」を統治の正統性の根拠としている。ムハンマド皇太子自身はビジョン2030に対する経済協力やイランに対する軍事連携の観点からイスラエルと接近を図ろうとしてきたが、この問題に沈黙を守っているのは、打撃を受けた証左だと筆者は見ている。

 トランプ大統領の宣言に対して、サウジアラビア王宮は「トランプ大統領の宣言は無責任で正当化できない」との声明を出した。その後、サウジ王宮の声明に意趣返しするかのように、ティラーソン国務長官がサウジアラビアの中東戦略(①イエメンの港湾などを封鎖し支援物資の搬入を妨害、②断交したカタールに対する経済制裁、③レバノン首相に辞任を強要)を全面的に批判した。トランプ政権はこれまでサウジアラビアの外交を全くと言って良いほど批判してこなかった。

 トランプ大統領が今年5月に訪問した際、サウジアラビアは1100億ドル以上の米国製兵器の購入を決定した。同国の過去10年間の米国製兵器の購入額(約75億ドル、ストックホルム国際研究所調べ)に比べると破格の購入額である。これにより同国はトランプ大統領との関係を盤石にしたとされているが、今回のトランプ大統領の宣言が米・サウジアラビア関係の蜜月の「終わりの始まり」になる可能性がある。

 サウジアラビア政府はカタールとの断交解除を要請するクウェートなどに反発して、12月5日、アラブ首長国連邦(UAE)とともに「湾岸協力会議(GCC)を脱退し新たな安全保障機構を創設する」と発言した。サウジアラビアがアラブ世界の盟主の座から降りることになれば、米国のサウジアラビア離れはますます進むだろう。

 イスラエルとの接近を図っていたムハンマド皇太子は11月に「パレスチナ自治政府のアッバス議長を首都リヤドに招いて『パレスチナ側に不利な和平案を受け入れなければ財政的な支援を停止すると迫った』」との観測がある(12月8日付東洋経済オンライン)。この観測が事実で、サウジアラビア国内でもこのことが知れわたれば、「同胞であるパレスチナ人の権利を守ると約束してきたサウド家の裏切り行為だ」として、国民のムハンマド皇太子への「期待」が「激しい怒り」へと転じるのは「火を見る」より明らかである。国内で内乱が生ずる懸念すらあるだろう。

 12月19日、イエメンのイスラム教シーア派反政府武装組織フーシが発射した弾道ミサイルが首都リヤドのサルマン国王の公邸近くで迎撃された。ムハンマド皇太子のイエメンへの軍事介入が開始されてから2年半が経過したが、サウジアラビア自身の安全保障に悪影響を及ぼすほどまでに事態は悪化している。

 ムハンマド皇太子が自ら作り出した危機でサウジアラビアをはじめ中東地域で大混乱が生じれば、原油価格は1バレル=100ドルを突破する可能性すらある。

 米国への原油供給に与える影響は軽微になる一方で、日本の原油輸入に占めるサウジアラビア(約36%)とUAE(約24%)のシェアは6割を超える状況が続いている。米国をはじめ非OPEC産油国の増産でその不足の一部を賄えることから、100ドル超えの原油価格は長続きしないだろうが、日本では約40年前に堺屋太一が執筆した小説「油断」で描いた危機が現実になってしまうとの懸念が拭えない。戦後最大の石油危機勃発のリスクが高まる中、官民挙げてその備えを盤石にすべきである。

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経済産業研究所上席研究員。1960年、愛知県生まれ。早稲田大学法学部卒。通商産業省(現・経済産業省)入省後、エネルギー・通商・中小企業振興政策など各分野に携わる。2003年に内閣官房に出向(エコノミック・インテリジェンス担当)。2016年から現職。著書に『日露エネルギー同盟』『シェール革命の正体 ロシアの天然ガスが日本を救う』ほか多数。

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