川井:私は、肉腫で足を切る人をなくしたい、という非常に個人的な思いから医師を目指しましたが、今、もし当時の妹と同じような患者さんが来られたら、きっと足を残した治療を提示してあげられると思います。これは、この数十年の間に、私たちの先達や同世代の医師が成し遂げた大きな進歩だと思います。

 その過程で私自身、多くのことを患者さんや病気から学ばせていただきました。良かれと思って行ったことが結果的に患者さんに辛い思いをさせることになったことも一度ならずあります。純粋だけど未熟な若者が無我夢中で数十年過ごしてみたら、知らないうちに遠くに見えた目標が手の届くところにあって、その向こうにさらに大きなたくさんの課題が見えてきました。髪は白くなって、お腹にも純粋な気持ちにも、いろいろな贅肉がくっついてきましたが(笑)。

 鳥井さんも、病気になって本当に大変だったと思いますが、そこから、人生をかけてやりたいことを見つけて、今、走り出しておられます。患者会の皆さんも、肉腫に対する思い、同じ病気で苦しむ仲間の役に立ちたいという純粋な気持ちで活動しておられます。

 肉腫で苦しむ人をなくしたい、助けたい、という根本において、医療者、患者会、患者アドボケイトの間に、何の違いもありません。医者はその気持ちを形にする訓練を受けたプロですが、患者会、患者アドボケイトの方々はプロでない分、プロである我々が見失いがちな純粋な志を持ち続けることができます。三者の協働はきっとうまくゆくと信じています。

 私が医師になった時のビジョンは「肉腫で手足を切る人をなくす」というシンプルなものでした。しかし、長年肉腫に関わってくる中で、人間にとって最も大切なものは命であるということ、そして、その価値を共有しつつ、その時できうる最善のことを一緒に悩み、考え、実行してゆくことが肉腫の医療そのものであるということを、今、改めて痛感しています。

「肉腫で命を落とす人がいなくなること」「肉腫で障害を持つ人がいなくなること」「肉腫で辛い思いをする人がいなくなること」が、私のこれからの目標です。

鳥井:先生の医療に対する想い、ブレない志に、がん体験者の一人として感銘を受けました。本日はありがとうございました!

第1回日本サルコーマ治療研究学会学術集会:http://www.congre.co.jp/jstar2018/

川井 章
国立がん研究センター骨軟部腫瘍科長/希少がんセンター長

1961年生まれ、岡山育ち、岡山大学卒業。大学病院勤務、米国留学を経て2002年より国立がんセンター整形外科(現国立がん研究センター骨軟部腫瘍科)勤務。2015年より希少がんセンター長。

鳥井 大吾
軟部腫瘍体験者/がん情報サイト「オンコロ」Web担当

法政大学経済学部 卒業後Webマーケティング会社に入社。営業、SEO施策、Webサイト解析、制作ディレクション業務を行う。社会人2年目で軟部腫瘍に罹患するも治療を経て復職。2016年4月に自身のがん体験を活かすべく株式会社クリニカル・トライアルに転職。Webサイト運営を行う。

*本稿は、がん患者さん・ご家族、がん医療に関わる全ての方に対して、がんの臨床試験(治験)・臨床研究を含む有益ながん医療情報を一般の方々にもわかるような形で発信する情報サイト「オンコロ」の提供記事です。