川井:最も大きな理由は肉腫を取り巻く医療の進歩・変化です。具体的には、肉腫に対する内科的なお薬の治療、外科的な手術的治療のそれぞれにおいて、求められる知識と技術が爆発的に進歩、複雑化してきているという状況があります。

 たとえば軟部肉腫に対して効果が期待できる抗がん剤は、これまでドキソルビシンとイホマイドくらいしかありませんでしたが、過去5年間の間にパゾパニブ、トラベクテジン、エリブリンという新しい薬が次々と登場してきました。また、後腹膜や胸壁など体幹部に発生した肉腫の外科的治療も急速に進歩しています。

 これらの変化全てに対応し、最高の形で患者さんに届け、さらにもっと発展させてゆくためには、一つの診療科だけでは限界があり、どうしても多くの診療科が協力する必要が出てきたのです。

鳥井:肉腫の治療が進歩・多様化してきたところが大きいのですね。

川井:そうですね。肉腫の診療において、いわゆる集学的治療*1、Multidisciplinary Team(集学的治療を行う医療チーム)の確立が不可欠になってきています。

 もちろん、発生部位など、肉腫という病気そのものが変わるわけではありませんから、その診断と治療において第一線の整形外科医が担う重要な役割に変わりはありません。専門家、非専門家を問わず全国にはりめぐらされた質の高い整形外科医のネットワークがあって初めて、適切な早期診断からリハビリ・社会復帰まで、現在の世界最高レベルのわが国の肉腫医療が達成されているということは忘れてはならないと思います。

 日本整形外科学会骨軟部腫瘍学術集会が、骨や筋肉など運動器に発生した肉腫、骨転移や良性骨腫瘍などより幅広い疾患や病態まで対応する“兄貴分の学会”だとすると、サルコーマ治療研究学会は、これまで等閑視されてきた内臓や後腹膜の肉腫や、より集学的な治療にフォーカスした“弟分の学会”と言えるかもしれません。お互いに、お互いがあってよかったといえるような、補完し、高めあえるような関係にしていきたいと思っています。

*1=手術、薬物、放射線など、さまざまな治療法を組み合わせて行う治療。