これは相手への思いやりなのです。部屋の後ろの壁に届き、かつ反響して返ってきた声が自分自身の耳にも届くということは、同じ部屋の中にいるすべての人に、きちんと言葉を、あるいは歌を、演奏を届けるという思いやり、いや、「届けずんばあらず!」という音楽人の意地のようなもので、それを徹底するのがプロの方法にほかなりません。

 その後も、そのようにすぐできるかは人によります。一発でうまくなる子もいれば、何回やっても最初から、というケースもある。音楽も、一般学生も同じことです。

 こういう方法は、いま一般の大学で全く教えられなくなっているように思います。紙の上だけ、言葉だけ、口先だけのプレゼンテーションばかり、という状況は、読者の皆さんの方がよくご存知かと思います。

 「熱意」は大事です。でも「熱意があれば大山も動く」は精神主義と言うべきで、頭の涼しい人は方法を考え、実践に結びつけることを考えるように思います。かつての三善晃青年がそうであったように・・・。

 いま私は、芸大に私を呼んでくださった先生方にお声がけをいただいて、パリ音楽院の基礎テキストの和訳を隙間時間に進めています。

 日経ビジネスオンライン以来、一般向けの原稿を多くの読者の方が楽しみにしてくださるようになりましたが、私自身は極めて狭い領域に関する厳密な職人が本来の仕事です。

 ただ、それだけだと社会と隔絶してしまうので、40歳を迎えて以降、一般向けの原稿も書くようになったのでありました。

 音楽のメソッドは人の心を動かすメソッドです。これを適切に用いれば、人の心を動かすビジネスプレゼンテーションを、自身の創意工夫で組み立て、実演できるようになります。パフォーマンスは決して無手勝流だけでできているわけではありません。

 相手を思いやり、自分のメッセージを確実に届け、相手の心を動かす・・・。

 何百何千とあるこうした方法の1つを、簡単にご紹介しました。ご希望があればレッスンの場を設けるようにと思います。