原油市場で地政学リスクが効かなくなっている理由

原油価格に大きな影響を与える11月のOPEC総会

2017.10.27(金) 藤 和彦
    http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/51439
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 サウジアラムコの国際市場での上場は「少なくとも2019年に先送りになる」との説が強まっていた(10月14日付ブルームバーグ)。障害となっているのはサウジアラムコの市場価値である。サウジアラビア政府が「2兆ドル」と主張するのに対し、市場サイドは「最大1兆ドル」と大きな開きがあるからだ。

 サウジアラムコ株式の売却益が大幅に目減りすることになれば、ムハンマド皇太子が主導する経済改革プラン「ビジョン2030」が失速しかねない。サウジアラビアにとって最大の原油輸出先である中国がサウジアラムコの主要な投資家になることを歓迎する向きもあるが、サウジアラムコ側はあくまで「2018年下半期に上場する」との計画に変更はないと主張している(10月23日付OILPRICE)。

 サウジアラビアにとって、サウジアラムコの海外市場での上場を成功させることは絶対的な命題である。サウジアラビア政府が世界の原油市場の過剰供給を緩和すると決意したのも、そのためだとの見方が一般的だ。9月にイラクやイランが原油輸出量を増加させても、サウジアラビアは輸出量を記録的な低水準にとどめている(イラクの対米輸出量は2カ月連続でサウジアラビアの輸出量を上回った)。

 サウジアラビアのファリハ・エネルギー産業鉱物資源相は、11月に開催されるOPEC総会前に、イラク、アルジェリア、カザフスタン、マレーシアを歴訪するとの情報がある。サウジアラムコの上場成功のために不可欠な原油価格1バレル=60ドル超を達成するための「血のにじむような努力」である。だが、もしもサウジアラムコの海外上場を諦めてしまうと、「身を削ってでも原油価格を押し上げる」というモメンタムが失われてしまい、世界の原油相場の上昇基調が崩れ去る可能性がある(10月17日付ウォール・ストリート・ジャーナル)。

 中国に話題を戻すと、今期で退任することが確実視されている周小川・中国人民銀行総裁は10月19日、「ミンスキー・モーメント」という異例の文言を用いて「国内の株式や不動産などの資産価格が急落し、金融危機が発生する」との懸念を示し(10月20日付フィナンシャルタイムズ)、原油市場は一時騒然となった。ミンスキー・モーメントとは「好調な経済に隠れているリスクが急に現れることによって資産価格が急落し、大規模な債務不履行が起きる瞬間」のことを指す。米国の経済学者のハイマン・ミンスキー氏にちなんで命名された。

 2008年の米サブプライムローン問題が引き金となって起きたリーマンショックの記憶はいまだに新しいが、中国の不動産担保ローンの規模は既にサブプライムローンの規模に達しているようだ(10月15日付ZeroHedge)。

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経済産業研究所上席研究員。1960年、愛知県生まれ。早稲田大学法学部卒。通商産業省(現・経済産業省)入省後、エネルギー・通商・中小企業振興政策など各分野に携わる。2003年に内閣官房に出向(エコノミック・インテリジェンス担当)。2016年から現職。著書に『日露エネルギー同盟』『シェール革命の正体 ロシアの天然ガスが日本を救う』ほか多数。

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