個人のクオリティ・オブ・ワークの向上と組織のイノベーション土壌の深耕

 働き方改革で“浮いた”時間に、好きなこと、やりたいことをやれるようになると、2つの方向で、よい結果が生まれると考えられる。

 1つ目の効果とは、ワークとライフのそれぞれで充実感を得られることや、片方が思うようにいかない時も、もう片方で気持ちを切り替えられることのおかげで、働く意欲を高く維持できることだ。1つのことだけを続けるのではないため、集中力の向上、それにともなう生産性の向上も期待できる。

 もう1つの効果は、同じ会社や組織で働く人が、それぞれに別の世界やコミュニティを持っていることに起因するものだ。

 現代は、どの組織も、生き残りをかけて「イノベーション」を起こすことを至上命題としている。そしてそれは、多様な知恵の新しい組み合わせによってしか、起こらないと分かっている。

 同じ会社の同じチームの人々と、毎日10時間近くも顔を突き合わせていると、集団の持つ知識がだんだん同質化してしまう。職場以外の場に参加する時間がなければ、互いに新しい知恵を持ち寄りようもない。

 筆者の知人は、「職場では、他の人が知っていることを知っていても価値がない。誰も知らないことを知っていることにこそ価値がある」といって、会社以外での活動量を年々増やしていた。

 その人の言うとおり、すべての人が、同僚とは異なるコミュニティや学びの場、違う価値観の人たちとの交流から、同僚が知りえないことを持ち帰ることができれば、組織に還流する知恵や知識の量は爆発的に増える。

 勇気を持って、意識的に、仕事をおいて街に出る(家に帰る)ことが、いま求められているのだ。

*1『働き方改革の実態調査2017』(デロイト トーマツ コンサルティング)

*22017年9月19日『おはよう日本』内「けさのクローズアップ」(日本放送協会)