筆者は、セミナーなどで企業の管理職に向けて次のような質問を投げかけることがよくある。

「あなたは、ある優秀な部下から次のように言われました。『私はこの仕事にやり甲斐を感じています。妻は専業主婦で、家のことは彼女に任せています。なぜ、働く時間に制約のない私まで早く帰らなくてはならないのですか?』。この部下に、どのように返答しますか?」
 

 この質問に対する、二大回答は以下のようなものだ。

・「専業主婦だとしても、奥さんを手伝うのも大事だ」と伝える
・「目の前の仕事だけでなく、読書をするなどの自己啓発によっても能力を伸ばせる」と伝える
 

 残念だが、このような答えでは、部下の早く帰るモチベーションは向上しそうにない。

 退社後も結局は「やらねばならぬこと」で埋められていくようにしか感じられないからだ(ここでは、日本の男性の育児や家事へのコミットメントの低さという問題はおいておく)。「やらねばならぬこと」をやるための時間なのだとしたら、その筆頭である「仕事」に使って何が悪い、ということになってしまうのだ。

働き方改革で浮いた時間の使い方

 では、“浮いた”時間の使い方として何が正解なのか。

 答えは「なんでもいい」だと筆者は考える。

 家族との時間を増やしたい人はそうすればいいし、スポーツをしたい人はそうすればいい。読書も、仕事に直接的に役に立つものだけでなく、小説やエッセイなど何を読んでもいい。映画が好きな人ならば毎日1本の映画を観てもいいし、飲むのが好きな人は、毎日飲み屋探索をするのもいい。ギターの稽古を再開するのもいいだろう。

 誰もが、仕事のほかに、やりたいこと、好きなことのために使える時間を持てるようになることが、働く個人の目線、社会目線での働き方改革の目的である(企業目線では、生産性向上という別のゴールも重要になる)。

 中央大学大学院の佐藤博樹教授は、仕事以外の時間にやりたいこと、やるべきことを見つける「生き方改革」が、働き方改革の前に必要だと看破している。