原油市場を動かすのは地政学要因か、金融要因か

中東で高まる地政学リスク、市場ではリスクマネーが減少

2017.09.29(金) 藤 和彦
    http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/51182
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 9月19日付フィナンシャルタイムズは、「サウジアラビアの治安部隊が聖職者を弾圧」と題する記事を掲載した。サウジアラビア政府は2016年にシーア派の反政府活動家を弾圧しているが、今回の弾圧はスンニ派のイスラム主義者が中心である。逮捕された活動家たち(聖職者や学者、ビジネスマン)は前皇太子の解任やカタールとの断交などに反対していた。弾圧を指示したのはムハンマド皇太子だとされているが、政府の方針に反対する活動家たちの動きは2011年の「アラブの春」以降最大のものだったと言われている。

 ミレニアル世代からの支持が高いとされるムハンマド皇太子だが、自身が進める改革プランが暗礁に乗りあげ、改革に伴う痛みばかりが各方面で広がっている。

・ガソリン価格の値上げなどで昨年の自動車販売は前年に比べて約2割落ち込んだが、政府は来年からガソリン価格をさらに80%値上げする意向である(9月18日付ブルームバーグ)。
・政府が発注した事業は支払いが遅れ、大手ゼネコンの1つであるOgerは倒産の危機に瀕している(9月14日付ブルームバーグ)。
・政府の多額の債券を引き受けた銀行は収益構造が悪化し、民間部門に資金を回す余裕がなくなっている(9月12日付ブルームバーグ)。
・サウジアラビア政府は今年2回目となるドル建て債の発行で125億ドルを調達することを余儀なくされている(9月28日付ブルームバーグ)。

 経済情勢が悪化する中で来年1月には付加価値税が導入されるが、国民に対して手厚い保障や安定した仕事を提供することでその政治参加を制限するという約束を反故にされれば、国民が「代表なくして課税なし」として政治参加を求めるのは当然である。

 開明的だとされるムハンマド皇太子は国民の政治参加について言及しないどころか、人々を従わせるために独裁的手法をとることに躊躇しない。当初は期待した国民だったが、「改革プランが遅れるほどさらに圧政の度が強まるのでは」と心配は募るばかり、「国内では個人的意見を持つことができず、巨大な刑務所になっている」という嘆きまで伝わってきている(9月19日付フィナンシャルタイムズ)。

 北朝鮮のことかと思いたくなるような情勢だが、さらなる類似点があるようだ。

 サウジアラビアは早ければ10月にも原子炉の入札手続きに入ることが明らかになった(9月15日付ロイター)。入札規模がインドや南アフリカの案件に比べて少額であることから、原子炉のタイプは高温ガス炉だと筆者は考えている。サウジアラビア政府は今年6月から、中国核工業建設集団公司他と高温ガス炉導入に関するフィージビリスタディを開始している。

 ここで注目すべきは、高温ガス炉は軽水炉に比べ発電規模は小さいが、兵器用プルトニウムの生産に適しているという点である。サウジアラビアが核兵器開発に踏みきったと断言するつもりはないが、イスラエル以上にイランの核ミサイルに脅威を感じているサウジアラビアの今後の動向には要注意だろう。

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経済産業研究所上席研究員。1960年、愛知県生まれ。早稲田大学法学部卒。通商産業省(現・経済産業省)入省後、エネルギー・通商・中小企業振興政策など各分野に携わる。2003年に内閣官房に出向(エコノミック・インテリジェンス担当)。2016年から現職。著書に『日露エネルギー同盟』『シェール革命の正体 ロシアの天然ガスが日本を救う』ほか多数。

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