原油市場を動かすのは地政学要因か、金融要因か

中東で高まる地政学リスク、市場ではリスクマネーが減少

2017.09.29(金) 藤 和彦
    http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/51182
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 イラク北部のクルド自治政府は「イラクを分裂させる」という国際社会の大反対にもかかわらず、9月25日、独立を問う住民投票を実施した。

 クルド人はイラクやトルコ、イラン、シリアなどの山岳地帯を中心に約3000万人が暮らすとされている。イスラム教が多数を占めるが独自の言語を持つため、各国で少数派として同化政策の対象となってきた。イラクでは、2005年に制定された新憲法によりクルド人は正式に自治権を得た。その後、2014年以降、IS(イスラム国)掃討を通じて実効支配する地域を拡大させてきたが、中央政府との間で石油収入の分配を巡る対立が続いている。

 原油市場が敏感に反応したのは、トルコのエルドアン首相の発言に対してである。クルド自治区は、原油を輸出するためにトルコ国内の原油パイプラインを利用している。エルドアン首相はそのパイプラインを「遮断する可能性がある」と発言したのだ。イラクでの住民投票の動きがトルコ国内のクルド系住民の独立運動に飛び火することを警戒しての発言だった。

 イラク政府も、各国に対し「クルド自治区の原油を輸入しない」ことを要請している。そのため、クルド自治区の日量50万バレル超の原油供給が停止するとの懸念が広がり、原油相場の買い材料となった。

 中東地域の地政学リスクが改めて認識される結果となったが、同地域における地政学リスクはクルド問題に限ったことではない。イランでは核ミサイル開発の動きがある。

 イラン国営メディアは9月23日、「射程2000キロメートルで多弾頭型の新型弾道ミサイルの発射実験に成功した」と報じた。国連安全保障理事会は2015年の決議でイランに「核弾頭搭載可能なミサイルを開発しない」よう求めており、トランプ政権が反発するのは必至だ。「イスラエルがイランの核施設に先制攻撃を行うのではないか」と警戒する声も上がっており、予断を許さない状況である。

暗礁に乗り上げるムハンマド皇太子の改革

 かねてより指摘しているサウジアラビアの事態もさらに悪化している。

 サウジアラビアのサルマン国王は10月4日からモスクワを訪問する。ジュベイル外相が「歴史的」(9月24日付露スプートニク)と評価する今回の訪問は、米国に続いてロシアからも「ムハンマド皇太子を後継国王にする」ことへの「お墨付き」を得るための訪問であろう。

 だが、肝心のムハンマド皇太子の評判は芳しくない。 日本におけるムハンマド皇太子に対するイメージは、「親日的」「果断に国の大改革を進めている」「若者や女性の社会参加を後押ししている」と肯定的なものが多いが、サウジアラビア国内ではムハンマド皇太子への不満が急速に高まっているようだ。

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経済産業研究所上席研究員。1960年、愛知県生まれ。早稲田大学法学部卒。通商産業省(現・経済産業省)入省後、エネルギー・通商・中小企業振興政策など各分野に携わる。2003年に内閣官房に出向(エコノミック・インテリジェンス担当)。2016年から現職。著書に『日露エネルギー同盟』『シェール革命の正体 ロシアの天然ガスが日本を救う』ほか多数。

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