(英フィナンシャル・タイムズ紙 2017年9月19日付)

ミュンヘン安全保障会議で登壇したジョージ・ソロス氏(2015年2月撮影)。Photo by Widmann/MSC, under CC BY 3.0 DE.

 億万長者の投資家で慈善家でもあるジョージ・ソロス氏は、忙しい1年を過ごしてきた。2017年の初めから、シリアで化学攻撃をでっち上げ、米ワシントンでの反トランプ行進に資金を出し、ハンガリーを難民であふれ返らせる「ソロス・プラン」を考案し、マケドニアに政権交代をもたらし、イスラエル首相を弱体化させ、有力なホワイトハウス側近数人を解任に追い込んだ。87歳の男にしては悪くない働きだ。

 もちろん、上記はすべて陰謀論だ。だが、こうした陰謀論が今年表面化したこと、そしてすべてにソロス氏の名前が出てくることは、単なる珍事ではない。世界の政治について、重要で不安になることを物語っている。

 1990年代には、ソロス氏は金融で築いた巨万の富を使って共産党体制終結後の欧州などで民主主義への移行を支援し、時代の精神と調和していた。しかし今、世界の政治情勢が変わり、リベラルな理念が後退している。米国からロシア、ハンガリーに至るまで、新世代のナショナリスト(国家主義者)にとっては、ソロス氏は完璧な悪役になった。

 何しろソロス氏はナショナリズムの時代の国際主義者だ。集団の権利ではなく、個人の権利を支持している。米フォーブス誌の富豪リストによると、世界で29番目の大富豪だ。また、ソロス氏はユダヤ人でもあり、陰に隠れ、世の中を操る国際的資本家という、かつてはロスチャイルド家のために取っておかれた役を容易に割り振れる。

 今年浮上した反ソロス・プロパガンダの中でも特に不快なものは、ソロス氏のことをはっきりと、ロスチャイルド家に対する古い中傷と結び付けていた。

 米国第一主義のナショナリストたちは、H・R・マクマスター米大統領補佐官(国家安全保障担当)がホワイトハウス内の味方を追放していると心配し始めたとき、「マクマスター・リークス」と銘打ったウェブサイトを立ち上げ、「ソロス」「ロスチャイルド」のラベルが張られた人形遣いに操られているマクマスター氏の風刺画を掲載した。