見過ごされている遺族のケア

 本書は遺族のインタビューにも大きくページを割いている。彼らの無念の声に胸を衝かれない人はいないだろう。「体への負担が少ない」という言葉を信じて腹腔鏡手術を受けて亡くなった患者たちは、みな凄絶な苦しみとの闘いを強いられた。短い人でも17日、長い人は97日にもわたって苦しみ続けた。愛する家族の悲惨な最期を目にした遺族は、いまも自責の念に駆られている。当時の執刀医や教授との面談が実現し、話し合いを始めることができたのは、ようやく今年の7月からだという。

 群馬大病院の問題をきっかけに、医学界はさまざまな再発防止の対策に着手しているが、遺族のケアは見過ごされているように思う。不幸にも患者が亡くなった場合には、遺族が納得できるように医師の側が説明を尽くさなければならない。そんな制度をつくれないだろうか。医師に疑問をぶつける機会が持てることは、そのまま遺族にとっての喪のプロセスにもつながるはずだからだ。

 医療事故によって医師が業務上過失致死罪に問われるケースはほとんどないと言われる。だが医師は決して万能な存在ではない。いま医師に求められているのは、「わたしは間違えるかもしれない」という思いをどれだけ持てるかではないだろうか。命を扱うことについての畏れ。そういう謙虚さを持つ医師だけが、困難な手術に挑む真の勇気を手に出来るのではないかと思うのである。

 本書は日本の医学界に「変わることの勇気」を呼びかけて終わっている。この不幸な医療事故をきっかけに日本の医療が根底から変わることを願ってやまない。

首藤 淳哉
1970年生まれ。大分県出身。ラジオ局で番組制作を担当。「本を読む」ことと「飲み食いする」ことをただひたすら繰り返すという単調な生活を送っている。妻子持ちだが、本の収納などをめぐり年間を通して家庭崩壊の危機に瀕している。太っているのに綱渡りの日々。好きなジャンルはノンフィクション、人文、サイエンス系。

 

◎こちらもおすすめ!
『アウトサイドで生きている』自分の衝動や快楽にきわめて忠実な18名の表現者たち
『家族最後の日』植本一子の見えすぎる目
『FIFA 腐敗の全内幕』FIFA腐敗のメカニズムを解明する
『ポピュリズムとは何か 民主主義の敵か、改革の希望か 』本当に恐れるべきなのは失望感
著者インタビュー『殺人犯はそこにいる』清水潔氏