皆既日食が99年ぶりに米大陸横断、数百万人が大移動

米サウスカロライナ州チャールストンで、日食グラスを試す親子(2017年8月20日撮影)。(c)AFP/Mandel Ngan〔AFPBB News

 8月21日、「皆既日食帯」が西海岸オレゴン州から東海岸サウスカロライナ州へと米国14州を「横断」、国内外より詰めかけた多くの「観測者」が壮大なる天体ショーを神秘体験した。

 北米大陸を日食が横断するのは約100年ぶりのこと。ワシントンD.C.ではドナルド・トランプ大統領が観測用眼鏡をせず見上げようとし、「Don't look!」との声が上がる一幕もあった。

 日食のたび、網膜を傷つける人が続出する。朝日や夕陽を写し続ける写真家の多くが視力を犠牲にしているともいう。それほどに、太陽のエネルギーは強力なのだ。

 私は1990年代、メキシコとハンガリーで皆既日食を体験した。その瞬間の劇的な環境変化は、今でもはっきり覚えている。

皆既日食による不思議な体験

 部分日食が始まっても、あまり変化は感じない。しかし、皆既となる数分前から、場の雰囲気に変化が訪れる。鶏が鳴き、犬が落ち着きなく走り回る。人間以上に、敏感に変化を感じているようだ。そして、急速にあたりは闇に包まれる。

 真昼にいきなり訪れる夜。空には星が輝いている。しかし、地平線の彼方には薄明かりが残っているのが夜と違う。急激な温度変化にさすがに「鈍感な」人間であっても違和感を覚えるようになる。

 そして、数分が過ぎ、また日常が戻る。白昼夢のような体験。

 今回、テレビで、ネットで、世界中が目にした皆既日食は、小学生でも原理を知る天体現象だが、かつて、天文学の知識がなかった人たちにとって、いつ太陽が戻るのか不安でたまらぬ悪夢であったに違いない。

 人口50万人ほどの人口最少州ワイオミングでは、「観測」に訪れた人々で一時「人口」が倍増。普段、車もまばらな平原の一本道が渋滞する様子をメディアは伝えた。

 アルゴンキン語族先住民の言葉で「大平原」を意味するワイオミング。東側は「Great Plains」と呼ばれる海抜1000~2000メートルの平原が広がり、西側をロッキー山脈が北西から南東へと走る。

 「シャイアン族」から名づけられた最大の都会、州都シャイアンでも人口5万人ほどという自然豊かな地は、「Cowboy State」とも呼ばれる。

 その雄大な自然は、西部劇の古典『シェーン』(1953)のもう1つの主役だ。「シェーン、カムバック」と少年が叫ぶラストシーンも、グランド・ティトン国立公園の景観あっての名場面。窮屈な都会生活を送る者には癒しとなる。