皮膚科を受診したところ、「抗がん剤が原因の薬疹であるのはほぼ間違いありませんが、もう1回受けてみないと確定診断はできませんね」と言われました。翌週に2回目のパクリタキセルを受けると薬疹はさらにひどくなり、手足のしびれも強くなってきて、抗がん剤をドセタキセルに変えることになりました。

 ドセタキセルの初回投与日は医師国家試験の結果の発表日でした。国家試験を受験した6年生の担任だった唐澤さんは、残念ながら合格できなかった8人の学生に夜中までかかって手書きで励ましの手紙を書きました。

「手がしびれて頭がぼーっとしていて、これはきつかったですね。もちろん学生たちには私のがんの話はしていません。学生部長から後で学生が手紙を読んで泣いていたと聞き、私の気持ちは届いたようで、ホッとしました」。

 その晩は、ドセタキセルの神経障害で全身がしびれて痛みが強く、眠れませんでした。「このまま抗がん剤の治療を続けていたら、どうなるんだろう、死ぬかもしれないと暗闇の中で恐怖を感じました」と唐澤さんは語りました。

 翌日も体調は回復しませんでしたが、仙台での会合に行くかどうか散々迷ったあげく、出かけました。重要な会合で、自分が欠席すると迷惑がかかると思ったからです。

「家から駅までタクシー、新幹線はグランクラスで爆睡、仙台駅から会議場までもタクシーで移動し、会合だけ出て、逆コースを辿って帰ってきました。元来、負けず嫌いな性格ですので、何とか普通に見えるようにがんばりました」。

 唐澤さんが予想外だったのが、翌日に始まった激しい下痢でした。2日間は投薬で症状を抑えて普段通りに診察業務などを行いましたが、その後は腹痛がひどくなり、欠勤。そして、腹痛がさらにひどくなり、週末に入院しました。