「そのような場合でも、局長は、“規則で認められていないからダメ”と杓子定規に言うのではなく、“こうすれば良いのでは”と建設的に投資家にアドバイスできる人。自分の意見もしっかり表明でき、人望も厚い」とぞっこんだ。

パートナリングがカギ

 もっとも、長らく「鎖国」状態にあったこの国に、今後さらに外国投資を呼び込むためには、乗り越えるべき課題もある。

 電力などのインフラや、さまざまな法制度の整備が喫緊に求められていることは言うまでもないが、その次に挙げられるのが、外資に対する不安感だ。

 前政権下で進められてきた改革・開放路線の歩みの上に、近年、外資と共同企業体を立ち上げてビジネスを成功させる事例も出てきつつある一方で、巨大な外国資本との競争に生き残ることができるか、戦々恐々としているミャンマー人投資家も多い。

 もっとも、これは外資にとっても同様で、これまで制裁の影響で自由な取引関係を構築しづらかった地元の経済界、例えば軍と関係の深い政商や財閥などとの間でいかにビジネス関係を再構築していくか、外資側も意識の変革が求められているのは間違いない。

 「今後の投資促進にあたっては、パートナリングがカギを握る」と本間さんは見ている。

 また、長く続いてきた知識詰め込み型教育の影響も大きい。この国では、学校でも自ら考える機会を与えられることがないため、指示されたことに忠実に取り組むことは得意でも、皆で議論し論理を積み上げていくことが苦手な人も少なくない。

 しかし、DICAが今後、全州・地域に拠点を構え、地方への投資促進がさらに強化されることを踏まえると、一人ひとりの職員が上からの指示を待つことなく、自ら考え、判断する場面が増えることは間違いない。

 そこで、本間さんが任期中に力を注いだのが、彼らに対するキャパシティービルディングだ。

 具体的には、DICAを中心に関連省庁の職員15人をマレーシアに引率し、同国の投資庁で研修を行ったり、地方投資行政の体制がより整っているベトナムに前出のDICA局長や各支所長、州政府の幹部ら20人を引率し、地方への投資誘致の在り方について学んだりするスタディーツアーを実施した。

 さらに、実際にどのようにして地方への投資を呼び込んだらいいか、DICA職員の理解と意識を高めようと、前出の地方拠点のうち、マンダレーとタウンジーの2カ所で、彼らと一緒に投資フェアを企画し、開催した。

 ミャンマーの外資受け入れと言えば、日緬の官民連携プロジェクトであるティラワ経済特別区(SEZ)も、目を見張るスピードで開発が進んでいる。

 同事業は、前政権が軍事政権からの脱皮と経済の国際化を図る切り口として注目したことから、日本も工業団地のインフラ整備や移転住民の生計回復支援はもちろん、公正かつ迅速な手続きの実現に向けて重層的に支援を実施。

 SEZ法案や細則の作成、12省庁の職員がSEZ管理委員会の指揮下で行政許認可の手続きを一括処理する「ワンストップサービスセンター」(OSSC)の立ち上げも支援した。

 こうした取り組みが奏功し、2015年9月に華々しくゾーンA(400ヘクタール)がオープンしたのに続き、今年2月にはゾーンBのフェーズ1(100ヘクタール)の開発工事も始まっている。

 とはいえ、国全体の投資額について言えば、約95%はSEZ外に対する投資が占めており、DICAが事務局を務めるミャンマー投資委員会が管轄している。

 「SEZ内では想定しにくい業種も多く、DICAが担う役割は、今後、ますます大きくなるだろう」と本間さん。10年来の趣味だというマラソン同様、ミャンマー投資の促進に向けてこれからも走り続ける。

(つづく)