あらゆる知的生産物に名前を入れよう

 とくに匿名文化を変える必要が大きいのは、ホワイトカラーの職場だろう。価値の源泉がハードウエアからソフトウエアに移り、知識社会を迎えた今日、知的生産物の価値は以前に比べ格段に高まっている。アイデア一つが会社に莫大な利益をもたらすことがあるし、文章表現一つでビジネスの成否が左右される場合もある。にもかかわらず、日本企業はこれまで社員の知的貢献を十分に評価してこなかった。その表れが匿名文化、匿名主義である。

 自分の名前が出なければ、適当にやっておこうという気持ちになるのが普通だ。少なくとも、ありったけの知恵を絞ってアイデアを出そうとか、自分の名誉にかけてよい仕事をしようというような高いモチベーションは期待できない。

 あらゆる知的生産物について、原則として個人の名前を明らかにすること。それを私は「シグネチャーポリシー」と呼んでいる。たとえば部下のアイデアは発案者の名を明示するよう上司に義務づけるとか、会議の発言は記録をとっておく、企画案など社内文書には原則として部署名とともに個人の署名を入れる、などとルール化してはどうか。

 また社員一人ひとりの仕事内容や業績などは社内のウェブに載せるようにする。プロジェクトチームの場合は、映画のエンドクレジットのようにメンバー個々人の名前と役割を記載すればよい。

「仕事は組織でするもの」という建前にこだわり、匿名主義にこだわっている限り(よくない意味での)サラリーマン意識を払拭することはできない。プロとしての責任感と意欲を持たせるには、まず自分の名前を出して仕事をさせることから始めるべきである。