「休む」を通じて「人生全体」を充実させる

 筆者は、「休み方改革」の本質的な意義は、これまで会社が支援する対象でもなく、かつ従業員のニーズも決して高くなかった「仕事以外の人生への投資」を、企業があえて支援することにあると考えている。

 ではなぜ、今、会社は「仕事以外の人生への投資」を支援する必要があるのだろうか。最大の理由は、イノベーションの創出だ。目の前の仕事にのみ没入する画一的な人材の集団からは、イノベーションは生まれてこないからだ。

 加えて、「人生100年」時代を迎えつつある今日、個人にとっても、仕事以外の人生への投資は重要である。家庭や地域とのつながりといった人生全体における幸福追求を行うことで、仕事もより充実したものとなるからだ。

 現代の日本人にとって、職業人としての側面は人生全体の一部に過ぎず、家庭や趣味、学び直しなど、さまざまな「大切にしたいこと」があるはずだ。何にどの程度の投資を行うかは、個人の価値観次第だが、自身が重視する要素を1つでも軽んじてしまうと、人生全体に対する満足度は下がる。そうなると、仕事への意欲も低下し、結果として仕事におけるパフォーマンスも落ちてしまうリスクが高まると筆者は考えている。

 そして、これらの要素に投資を行うためには、相応の「時間」と「労力」が必要だ。「休み方改革」先進企業はこれを踏まえて、既に手を打ち始めている。先日、筆者が面会したある企業の役員が「休み方改革は福利厚生ではなく経営戦略」と言い切っていたのは象徴的だ。

 非常に興味深いことに、資本主義の最先端を行く米国において、近年、同じような考え方が提唱され始めている。

 ペンシルベニア大学ウォートン・ビジネス・スクールのスチュアート・フリードマン氏は、自身の人生を構成する4つの領域(「仕事」「家庭」「コミュニティ」「自分自身」)すべてにおいてリーダーシップをとることを「トータル・リーダーシップ」と定義し、過度に仕事に傾注することに警鐘を鳴らしている。