これはどの資本主義国にも同じ恐怖が蔓延していたようで、戦後の西側諸国は、共産主義化を避けるために必死になって雇用を維持しようとした。

 資本主義と、雇用を維持しようという社会主義的な行動のハイブリッドは、興味深い結果をもたらした。経済が大きく成長したのだ。

 雇用が安定すると、収入がさほどでなくても、たまには「プチぜいたく」がしたくなる。みんなが雇用されていると、そのプチぜいたくの総量がバカにならなくなる。その分の商品量を提供しようと仕事が増える。売り上げが伸びる。少し収入が増える。またプチぜいたくしたくなる。こうした正の好循環が起きていた。

 つまり、生産性を上げようとする生産性至上主義では、失業者が増え、売り上げが伸びず、労働時間が長くなるばかりで収入は減っていくデフレ状態に陥りやすい。

 一方、雇用を増やそうとする“資本主義と社会主義のハイブリッド”(社会民主主義)だと生活が比較的安定し、プチぜいたくする人が増え、消費が伸び、仕事が増え、収入が増えるという好循環を招きやすい。

 どうやらバブル崩壊以後の日本は、前者の「労働生産性至上主義」を選択したことで、自らデフレ社会を招いてしまった感がある。

矛盾を抱えた人間に合わせた社会

 しかしここで懸念が1つ生まれる。雇用を維持しようとしすぎれば労働者が安心してしまい、「クビになることはない」とあぐらをかくようになって働かなくなり、経済は停滞するのでは、という恐れだ。

 実際このことは、共産主義国のソ連や、労働運動が強くなりすぎたイギリスの一時期に起きた。労働者が「働かずにカネをせしめる」ようになってしまったのだ。