そんな平野さんが前出の歩行者天国を企画した背景には、車両の通行を止め、普段は歩行者の邪魔になっている駐車車両も排除した空間を一時的にでも作り出すことによって、この地区の歴史や価値を住民自身に再確認してもらいたい、との思いがある。

 将来、どんな街にしていきたいかということを、「自分ごと」として考えてもらうためには、そもそも、現在の街のことを正しく認識しておく必要があるからだ。

 「YANGON Living Street Experience」と名付けられたこのイベントは、多くの人を動員することより、むしろ「いつもと違う雰囲気の街歩きをゆっくり楽しんでもらいたい」「住民や訪れた人の満足度を高めたい」という点に主眼が置かれていたため、大々的な広告を打たなかったにもかかわらず、口コミやフェイスブックによって拡散され、参加者は2日間でのべ9万人に上った。

ラオスの経験を横展開

 都市計画を策定する過程で、今回の歩行者天国のような社会実験を行うことは、近年、街づくりの手法として主流になりつつある。

 そうすることで、トップダウンの街づくりではなく、人々に主体性を持たせる効果があるのだという。その意味で、今回の歩行者天国の試みも時流にのったものだと言えよう。

 しかし、平野さんが今回のイベントにある程度の自信を持っていた理由は、それだけではない。実は、平野さんは、隣国ラオスでも同じようなイベントを実施したことがある。

 2015年から2年にわたり、首都ビエンチャンの都市開発管理に関する能力強化のための協力に携わった際、寺院が集積している歴史的な地区の一角を今回と同様に歩行者天国にし、ラオス和紙の提灯を通りに飾ったり、路上イベントや露店の出店を企画したりして大成功を収めたのだ。

 とはいえ、決してスムーズに進んだわけではなかった。歩行者天国にするために車両の通行を制限することに対し、最初は地元から強い反対を受けたのだという。

 特に、寺院群の周囲には観光客目当ての高級フランス料理やイタリアンのレストランが多く、「店の前まで車を乗りつけられなければ客足が離れる」との声が多かった。

 そんな店を一軒ずつ訪ねては、「決して悪いようにしない」とイベントの意義を説明し、なんとかイベントの開催にこぎつけたのは2015年2月のこと。ところが、ふたを開けてみると歩行者天国は大好評で、付近のレストランも大入り満員。

歩行者天国では、伝統舞踊が披露されるなどミャンマー色が強く打ち出された(=調査団提供)