要因は思わぬところにあった。入居している高齢者には明確なニーズがあっても、お金を支払うその家族や、老人ホームなどの施設には、まったくニーズがなかったのだ。家族には「もうこれ以上の費用負担はしたくない」、施設には「コストは削減したい」という思いが強かったのである。

 結局、4年間の営業活動を通じて1億円の借金を背負ってしまった。「いよいよ後がない」という、その時、中村氏は、介護業界一辺倒ではなく、目先を変えて「国際ホテル・レストラン・ショー」の癒し系のゾーンに、そのベッドマットを出展してみる。

 その際、夜勤が多く慢性疲労に苦しむ人の多い介護ヘルパー向けにPHT繊維を用いて作ったTシャツを、併せてディスプレイした。そして、これが転機となった。

 世界30カ国に展開し、会員数300万人を有するフィットネスクラブ「ゴールドジム」の担当者が、アスリートの疲労回復用として、ベネクスのTシャツに注目したのだ。

「高齢者の床ずれ解消」というミッション実現に向けて突き進んできた中村氏だったが、今や崖っ淵。介護分野からスポーツウェア分野へと転身することに決した。

 ゴールドジムの店舗に、順次、置いてもらう形で始まったリカバリーウェアの販売は、2店舗目以降、クチコミで人気に火がつき、同社の多くの店舗で販売されるようになった。やがて、「伊勢丹」新宿店のスポーツウェアコーナーにも置かれ、同コーナーにおける年間売上第1位を記録する。

高齢者を床ずれの苦しみから解放してあげるための技術開発が原点となって、リカバリーウェアは生まれた

 アスリート用として始まった販売だったが、購買層は一般のスポーツ愛好家(主として男性)へ、そして、男性ビジネスマンへと広がり、やがて、それを見て興味・関心を持った健康志向の女性層にも愛用されるようになっていく。

 その結果、販売チャネルが拡大すると同時に、事業領域も変容してゆく。

 伊勢丹を皮切りに、全国の百貨店、そして、スポーツ専門店やアウトドア専門店へと「スポーツ・アウトドア」分野中心の拡大が続いたが、やがて「美・健康・ライフスタイル」分野をも包摂するようになったのである。2017年3月に新宿高島屋8階ファッションフロアにオープンしたベネクス直営店などその典型だろう(冒頭の写真)。