ミニ「ドクターイエロー」!?

 行き交う列車を支え、進むべき方向に導く役割を担う線路。だが、100トン近い車両の重量と車輪の摩擦、そしてすさまじい振動によって、日々、レールは磨耗し、敷かれたバラストは崩れていく。

 それを計測するための機械が、このポップな色調の「トラックマスター」だ。

 2本のレールを挟んでそっと動かすだけで、レールが上下あるいは左右に波打っていたり、レール同士の間隔が設計値より広がっていたり、2本の高さが違ってねじれていたりといった7種類の「ゆがみ」を同時に測定できるのだという。

 測定中はリアルタイムでモニターにデータが表示されるほか、ゆがみを種類別に波線グラフに打ち出し、整備基準値を超えたゆがみを示している箇所を特定・確認することができる。

 「こうした機械が開発されるまでは、レール上の2点に糸をあて、中央点におけるレールと糸の距離を測るということを少しずつ繰り返すしかなかったんですよ」

 環状線の詳細設計を行うJICA調査団のメンバーで、軌道を担当するオリエンタルコンサルタンツグローバルの菊入崇さんの言葉を聞いて驚いた。言われてみれば非常にシンプルな原理だが、どこまでも続く線路の上でそんな作業を5メートルずつ繰り返すなんて、想像するだけで気が遠くなる。

 思えば、線路の向きを変えて車両の進路を変更する分岐器と呼ばれる機器を調査していた技術者たちも、レールとレールのつなぎ目部分の間隔の長さやレールの断面のすり減り具合などを1カ所ずつ測定することで、分岐器の状態を調べていた(参照)。

 列車が走行するための「道」を健全な状態に維持するために必要な検測や保守作業がどれだけ地道なものであるかを改めて思い知らされ、畏敬の念が込み上げる。

 もちろん日本でも、各鉄道事業者は最高速度別に線路の整備基準値をミリ単位で具体的に定め、レールのゆがみが基準値内に収まっているかどうか定期的に検査し、整備計画に反映しているという。

 もっとも、日本ではもはや糸やトラックマスターではなく、「ドクターイエロー」と呼ばれる黄色の新幹線のように、走りながら線路や電気設備の「健康診断」をする「新幹線のお医者さん」によって検測が行われているのだが、レールの上を動かすだけでレールのゆがみを測定できるこのトラックマスターも、基本的な原理は同じだ。

測量の注意点について説明する菊入さん(左端)
検測結果をグラフに出力。基準値内に収まっているかどうか一目瞭然だ