北朝鮮政府はワームビア氏が昏睡状態にある理由を「ボツリヌス菌の感染」と発表した。ボツリヌス菌とは汚染した土壌や食品から生まれる珍しい毒性のバクテリアで、人間の体内に入ると、けいれんや麻痺の重症を起こすという。

 ところが米国の医療機関がワームビア氏の身体を検査したところ、ボツリヌス菌はまったく発見されなかった。その代わり、同氏の脳には数カ所に深刻な損傷があったという。米国側では、脳損傷の原因は、外部からの打撃、あるいは特殊な薬品の注入だとみている。入院から1週間後の6月19日午後、ワームビア氏は昏睡状態のまま病院で死亡した。

米国の対北朝鮮政策は一段と強固に

 ワームビア氏が死亡すると、米国では、北朝鮮は自分たちの虐待によってワームビア氏の生命に危険が及んだため、あわてて同氏を解放し、昏睡の原因について虚偽の主張をしたのだとする認識が広まった。同氏の両親が記者会見をして、北朝鮮当局による虐待があったと非難したことも国民の怒りをエスカレートさせた。

 トランプ大統領は「北朝鮮当局の残虐な行為を非難する」という声明を出した。議会でも超党派で「北朝鮮の非人道的行為を許してはならない」(共和党のジョン・マケイン上院議員)という糾弾が表明された。

 米国メディアも、ワームビア氏の衰弱しきった画像を繰り返し流し、北朝鮮の責任を追及する論調を打ち出した。

 これまで米国は 基本的に北朝鮮の核兵器開発、ミサイル開発などを非難の対象としていた。しかし、今回ワームビア氏が死亡したことで、北朝鮮の人権弾圧にも批判の矛先が向けられることは避けられない。トランプ政権の対北朝鮮政策は一段と強固になるだろう。

WSJが日本人拉致事件を詳しく解説

 米国の国政の場では、北朝鮮に拉致された疑いが濃厚な元米国人学生、デービッド・スネドン氏への関心も改めて高まりつつある。スネドン氏は2004年夏に中国の雲南省で北朝鮮工作員に拉致された可能性が高く、現在は平壌で英語を教えているという情報もある。