インターネットでつながれた現代社会では、文化のもたらす影響力がますます大きくなり、デジタルコミュニケーションは新たな活動空間へと発展している。
ビジネス・クリエイティブ・ICTの3分野を融合した教育を提供し、デジタルコミュニケーションの創出を支える人材を育成する、デジタルハリウッド大学大学院。修了するとDCM(デジタルコンテンツマネジメント)修士という学位が取得できる。

株式会社フジテレビジョンに勤める北野雄一氏も、働きながら本大学院に通った修了生の一人。現在は同社のコンテンツ事業局でVR(バーチャルリアリティ)事業を担当する。
VRの技術を使ってテレビ局にとっての新しい事業を作ることを目的とするVR事業部は、2016年7月に新しく立ち上げられたばかり。北野氏はプロデューサー兼ディレクターとして、VRコンテンツの企画や制作を行う。

北野雄一
株式会社フジテレビジョン 総合事業局 VR事業部 Fuji VR(フジテレビが制作するVRコンテンツ)プロデューサー兼ディレクター。 2005年フジテレビ入社。バラエティ制作、営業を経験した後、コンテンツのデジタル&グローバル展開に未来を感じ、2011年IT部門に異動。平日夜間と土日昼間でデジタルハリウッド大学大学院に通学し、修士課程を首席で修了後、2016年新設されたVR事業部に配属。最先端のデジタル技術を活用したコンテンツやサービスの開発に取り組んでいる。

「具体的には、『お台場夢大陸めざましライブ』『東京アイドルフェスティバル』などのイベントに始まり、『RIZIN』『日本大相撲トーナメント』などのスポーツ、ドラマや映画と連動したコンテンツの企画、撮影、編集を行ったり。VRコンテンツ発の企画が配信番組、地上波番組になったこともある。また、VR視聴環境とセットにした新規パッケージ商品の開発や、視聴者に届けるためのプラットフォームの開拓、最近では総合デジタルプロデュースを掲げたBtoBの受託案件など、業務は多岐にわたる」という。
正解のない状態から手探りで始めたという、それまでになかった分野の仕事だが、「デジタルハリウッド大学院に進学していなかったらこの仕事にはたどり着けていない」と北野氏は断言する。

フジテレビに入社後、番組制作、営業での番組セールスなどを担当していた北野氏は、テレビ局事業の全体像を見ていくうちに、「50年前からビジネスモデルが変わらないテレビの業界で、上の世代を超えるような成功体験を作るためには、デジタルとグローバルの分野に進出するしかないと思った」という。
その後システム部門に異動し、業務を通してITの基礎を身につける中で、「デジタルなモノづくりにに挑戦するための素地を学びたい」と考えたとき、体系的なマネジメントプログラムを提供するデジタルハリウッド大学院への入学を決めたのは自然な流れだったという。
 

表現と社会が結びつく場所

 「通い始めて、最初の授業から強烈なインパクトがあった」と北野氏。
杉山知之学長がデジタルコミュニケーションの本質について論じる「デジタルコミュニケーション原論」で、杉山学長は、「未来を予測する最善の方法は、それを発明することだ」と、パーソナルコンピューターの生みの親、アラン・ケイの言葉を引用した。
まずは未来を思い描き、自分がその未来のどこにいたいと思うのか。
情報技術の歴史はエンターテインメントの歴史そのもので、「自分が今いる場所や作るものの意味、過去と未来に向けての文脈を考える癖がついたように思う」と北野氏は語る。

通学と仕事と両立は簡単ではなかったが、刺激的で豊かな経験だったという。1年目はデジタル表現に関する授業を中心に、ウェブやビジネスにかかわる授業など幅広い科目を受講し、2年目は研究に軸足を置いて修了課題に取り組んだ。
デジタルハリウッド大学院では、修了の要件となる修了課題も一風変わっており、学生が取り組むのは実践型の研究だ。開発したコンテンツなどを事業化するためのビジネスプランを策定してプロトタイプ(試作モデル)を提出する。

「コインスペース サードプレイス革命! 空きスペースを10分から収益化」
 デジタルハリウッド大学大学院 修了生 栗原知也さん(12期生)の修了課題制作概要

「HEATER PARKER! アイロン接着できる電子回路で変えていく、 未来の「衣」」
デジタルハリウッド大学大学院 修了生 O l g aさん(12期生)の修了課題制作概要

北野氏は、同級生とメディアアートユニットを組み、地方自治体の委託のもと、伊藤豊雄氏の設計したシンボルタワー「風の塔」にプロジェクションマッピング映像を投影した。北野氏が企画とコンセプトを手がけたこのプロジェクトは2日で5000名という最多の来街者動員の記録につながり、デジタルフロンティアグランプリ審査員特別賞を受けた。「新しい表現をやり切ることで、実社会にインパクトを与えた。そこが評価された理由だと思う」と氏は振り返る。

 

OSを入れ換える

 北野氏が修了後、学びを還元できる社内での業務を模索していたタイミングで、VR事業部への参画の声がかかった。
「デジタル・ITの分野への意欲が見られたのだと思う。大学院に通っていなかったらこの部署で働くきっかけはなかった」と北野氏。

「大学院で学んだことで、事業の立ち上げやウェブに関する知識を得るといった仕事への直接的な効果ももちろんあったが、変わったのはそれだけでない。デジタルに立脚した根本的な世界観を身につけたことで、それまで自分が持っていた知識や思考のOS(オペレーティングシステム)が書き換えられる経験をした」という。
それ以前は、世の中の劇的な変化に対して、自分の場所を見失うような不安を抱えることもあったという北野氏。
「今となっては、必要な情報にアクセスするためのひと通りの索引項目ができた。不安だったのは未来を描くための情報にたどり着く道筋が見えなかったからだと思う」と笑う。

「今の時代、デジタルが影響を及ぼさない分野なんてない」と北野氏。デジタル技術が世界に与える影響を体系的に学ぶことは、誰にとっても面白い体験になるだろうと勧める。
「時間やお金など、学びを得るための条件が整うタイミングは、人によって違うと思うし、働いていると目の前の業務に忙殺されがちだが、何かを変えなきゃと思ったときに、一度立ち止まって物事を俯瞰してみることも必要だと思う。」
「少なくとも自分が楽しめる未来を描くことができれば、それに向かって突き進む努力はできるはず。学問や研究はそのための後押しを必ずしてくれると思う」


Fuji VR(総合デジタルプロデュース)
http://vr.fujitv.co.jp/

FOD VR(フジテレビのVRコンテンツ視聴アプリ)
http://vr.fujitv.co.jp/fodvr

<取材後記>

 奇才ぞろいの同級生の中で、「自分の強みは幸運にも、既存メディアを活用した実験ができる立場にあるところ。今の場所でできることに徹底的に取り組み、新しい産業分野の発展に貢献したい」という北野氏は、研究領域との接続や、コンテンツのグローバル展開も考えているという。
拡張性の高い共通言語を手に入れると、その先の世界が広がる。デジタルハリウッド大学院で教えられる色彩豊かな奥義を垣間見た気持ちになった。



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