人間は平等なのだろうか、という素朴な疑問を考えることがある。

パナマシティ。
今、ここ!

 歴史的にはヨーロッパから来た征服者と先住民などの被征服者。地理的、習慣的には欧米や中東、アジアなどの文化の相違。経済的には富める者と貧しいもの。身体的能力や頭脳、人種や肌の色といった生理的要因などを見れば一目瞭然で、事実、人間は誰しも同じように生まれてくることはない。つまり、人は生まれながらにして不平等だ。

 裕福な家に生まれた者とそうでない者とでは、人生でのチャンスの数や可能性が同じだとは決して言えないし、容姿の良し悪しや、思考や感受性など、人には相違がある。

 しかし、頭脳明晰、容姿端麗だからといって、それが必ずしも幸せになる約束手形ではないところが、世の中の面白いところでもある。人にはそれぞれ個性がある。その個性が人間の魅力であり、また、人の運命や可能性を左右するのではないだろうか。

安全な安宿の客層に驚く

 コスタリカとパナマの国境を陸路で通過する際は、長い鉄橋を歩いて渡ることになる。橋の中程で黒人が、すれ違いざまに蔑みの表情で「チーノ!」とささやいた。私が笑いながら「オラ!(こんにちは)」と言うと、男は両手を上げて肩をすくめた。

パナマの収益源、パナマ運河

 パナマシティに着いたのが夜中の1時半。中米の国では、強盗、強姦、殺人など何が起きても不思議ではない時刻だが、パナマでは深夜でさえ女性がバスターミナルからタクシーを拾い、家路に向かう。その治安の良さに、日本にいるのと同じ安心感を覚える。

 時計が2時を回りそうなのを見て、寝るだけなんだからと、「ボイジャー」というバックパッカーの間では有名な安宿に宿泊することにした。この宿は、ロビーが夜回りの警官の休息場所になっているため、安全性は折り紙付きだ。

 あいにく個室は満室で、ドミトリーしか空いてないという。部屋には5つの二段ベッドが50センチ間隔で置かれ、10のベッドは私が入ると全てが埋まった。

 赤道近くの町の蒸し暑い夜。部屋にエアコンはなく、室内は30度を超えているようで、じっとしているだけで肌がじっとりと汗ばむ。薄明かりの中、音を立てないようにリュックを開けて洗面道具を出し、着替えると、辺りを見回して仰天した。私ともう1つのベッド以外、女性。しかも、全員があられもない下着姿。

 あちこちから規則正しい柔らかい息づかいが聞こえ、甘いシャンプーと官能的なパフューム、そして生命力を感じさせる動物的な匂いが扇風機によって攪拌(かくはん)され、部屋を満たしていた。

 「ドミトリー」というのは寝室という意味だが、見ず知らずの相手と一夜を過ごす寝室は、極めてプライベート性が薄い空間である。

パナマ~コロンビアの国境は車道がない

 パナマ運河を有するパナマは、中南米屈指の金持ちの国である。市内は摩天楼がマンハッタン島のように林立し、ヨットハーバーには巨大なセールボートやモータークルーザー、そして富豪だけが持つことを許されるメガヨットなどが整然と停泊し、海上には運河の通過を待つ船が列をなす。