日報が経営層含む社員の相互理解ツールに

 ラクーンでは、社員の自主性が尊重される。自らの声を上げるひとつの方法が、全社員のもとに届く「日報」だ。業務内容だけでなく、全社員に向けた一言メッセージを自由に書いていい。お客様からの声を書く人もいれば、自社に関係のあるニュースを共有する人もいる。「◯◯の案件で困っている」と書いてあれば、助けられる誰かが名乗りでて問題解決に結びつくのだという。

 経営層も毎日、日報を書いており、トップからのメッセージも日報を通じて届けられる。全社会議で一方的に通達するだけでなく、こうして同じ目線で語りかけることで、伝わりやすさも変わってくるのかもしれない。

実際の日報。社員全員が閲覧できる

 「弊社は日頃から経営層と社員の距離が近くて、話しやすいという文化はあると思います。名前を呼ぶときも役職は付けずに“さん付け”ですし。良い意味でフラットな関係性を築きやすく、意見もいいやすい雰囲気がありますね」(督永氏)

 いくら日報に好きなことを書いていいと言われても、誰からもリアクションがなく暖簾に腕押しの状態であれば、皆すぐに書くのをやめてしまうだろう。しかし、ラクーンでは、この日報をきっかけに業務がスムーズに回り、社員同士のコミュニケーションが発生する源として、有効に機能している。

ラクーン 総務人事担当副部長 林 義之氏

 総務人事担当副部長の林 義之氏は、「人事や広報が社内コミュニケーションを活性化しようとして、何かしらのイベントを企画したとしても、やらされているという感想や、義務感がどうしても出てしまいます」と言う。

「たとえば日報をきっかけにして、『社内のフリースペースでイベントをやりたい』と言う社員には自由にやってもらっています。会社は関与せず、必要とあれば後押しするという姿勢です。やりたい人が集まりますので、和気あいあいとした場になり、自発的に盛り上がります。

 そこに役員がフラッと参加することもあります。『ボードゲームをやろう』とか『スイーツ好きが集まって手作りスイーツを振る舞おう』とか、趣味の合う人が集まって社員同士がつながる機会をサポートすることが多いですね」と語った。

子育て中の社員に自助努力を促す工夫

 ラクーンの出産・育児支援制度「はたらくーん」の前身である「ワーキングマムプログラム」も、母親社員の発案によって2010年前後に生まれた。名前の通り、当初は女性向けのプログラムだったが、今年5月に男女問わず利用できる「はたらくーん」として刷新された。

 「小学校1年生まで時短勤務が認められる」「看護休暇に加え、子どもの年齢に応じて有給がプラスされる」「フレックスタイム」といった制度に加え、男性社員に向けて出産に立会うための「ベビーバース休暇」も設けられた。さっそく制度を利用した男性社員からの評判も上々だという。

 こうした手厚い保護を行うのは、社員の要望に応えるためというだけでは、もちろんない。

 元来、「男女によって差別や区別をするという概念がない」というラクーンでは、「多額の教育コストをかけて育ててきた社員は会社にとって大切な資産であり、出産・育児を理由に辞められてしまうことは、会社にとって大きな損失以外の何物でもない」と考えている。会社として、出産・育児を理由に女性が退職せずに済むような制度を整えることは、社員のためでもあり、会社のためでもあるのだ。

 しかし、勘違いしてはいけない。「育児をしながら働くということはとても大変なことという前提に立って、それでもキャリアを継続したいという社員を後押しする制度です。腰掛けではなく、第一線で働き続けてほしいという思いがあります。こういった制度も本人の手助けにはなるけれども本人の自助努力も必要で、併せて初めて育児とキャリアの両立ができる。」と林氏は強調する。

 会社が社員の自主性を重んじ、自立を後押ししてくれるからこそ、社員は自己の存在意義を感じやすく、働きがいにつながっているのではないだろうか。