ただし、ダンスはどの蜂も一回だけ。推薦するハチが増えるかどうかは、成り行きに任せるしかない。この方法だと、本当によい候補地だけが推薦するハチの数を増やし、ついに群れ全体での引っ越しを決める。この判断は、ほぼ間違いがないのだという。

 そこで『ミツバチの会議』の著者は、ミツバチのこのやり方を参考に、教授会の発言の仕方にルールを持ち込んだ。「全員が発言を終えるまで、次の発言はできない」というもの。

 声の大きい人は、自分の番の時は自説をまくし立て、他の人が異論を述べようとしたときには「いや、それはね」と発言を遮ろうとするだろうが、「みんな発言し終わったら、あなたの番が来ますから」と言って、黙らせる。こうなると、声の大きな人も黙って聞くしかない。

 この方法だと、普段は発言しないような人からも意見が聞ける。こうした場合、意外な視点を提供してくれることがある。会議の空気がさっと変わって、次の発言者も「今のご意見は大変興味深い」と、掘り下げにかかるようになったりする。こうなると、声の大きな人も、全体の形勢が不利だと感じることになる。

 次に自分の番が来て、今までの発言全体に喧嘩を売っても、また順番に聞くしかない。次々に異論が出てくると、これは声の大きさで押しきれないことを認めざるを得なくなる。すると、今度は多くの人に受け入れられやすい意見を述べようと工夫しだす。議論が建設的なものになってくる。

 何周か意見を述べ合うと、会議の参加者全員が「落としどころはこの辺だな」ということを感じだす。異論が減り、そこで決をとると、全員一致で決まることが多い。もちろん声の大きな人は思い通りにならなくて不満な面もあるが、自分1人で声を張り上げてもどうしようもないことがよく分かるから、ある程度決定に納得するしかなくなるのだ。

「衆知」を並列につなぐ

 この「ミツバチの会議」は、コンピューターで言うなら並列回路につなぐようなものだ。

 昔、スーパーコンピューターの開発は、たった1個の中央処理装置の能力を高めることで速度を上げようとしていた。