毎日のようにマイクロファイナンス機関の担当者と話をしたり、彼らの顧客である貧困層の村を訪ねたりする中で、JBrainを通じて得られるこれらの情報が、この国でビジネスを検討する企業にとっていかに魅力的なものか気付いた黒柳さん。そこで思い付いたのが、彼らをつなぐコミュニケーションツールを立ち上げることだった。

 「貧困層に定期的に情報を流す仕組みをつくれば、彼らをターゲットにした新商品やサービスに関する情報を届けたり、市場調査を行ったりして付加価値を付けられる」と直観したのだ。「長い目で見れば、新規事業の種まきにもなる」という勝算もあった。

 同じころ、MJIを率いる加藤侑子さんも、同じようなコミュニケーションツールを模索し始めていた。

 融資を提供する側の立場から、「お金を借りるのは怖いことではないと知ってほしい」「楽しくお金を借りて少しずつ楽しく返済することで、より良い生活を手に入れることができると伝えたい」と考えている加藤さん。

 外国人の自分が少しでも現場を知ろうとしている姿を見せて村人たちの信頼を得るべく、定期的に支店に足を運ぶことを心掛けている。

 その一方で、さらなる事業拡大のためには、出資者である投資家や株主へのサービスも忘れてはならない。

 「現場の状況を出資者に適切にフィードバックすることで資金調達の課題もクリアできる媒体をつくれないか」。加藤さんの中でアイデアが膨らんでいった。

 7つあるMJIの支店すべてにJBrainを導入することが決まったのは、そんなタイミングだった。打ち合わせを重ねるようになった黒柳さんと加藤さんが、お互いに同じようなコミュニケーションツールの立ち上げを考えていることに気付き、「一緒にやろう」と意気投合したのは、2016年4月のことだった。

暮らしに身近なマンゴーのように

 3カ月後、そんな2人に強力な同志が現れた。ヤンゴン編集プロダクションを主宰する北角裕樹さんだ。

 日本で新聞記者などを経て、2014年からミャンマーに拠点を移し、情報誌の編集長を務めた後、フリーのジャーナリストとして現地のビジネス動向を取材する傍ら、広報アドバイザーや市場調査も手掛けている。

 最初は取材者として黒柳さんを訪ねた北角さんだが、リンクルージョンを立ち上げた経緯や今後の展望についてインタビューする中でこの構想を聞き、「手伝いたい」と名乗りを挙げた。

 

週に1度の融資日に支店に集まった顧客たち(左)にあいさつするMJIの加藤さん(2016年12月、トンティ村で撮影)