獲れたばかりで鮮度の高いスルメイカ。日本でスルメイカはイカ類では最も食べられている。(写真提供:桜井泰憲氏)

 日本人の身近な食材「イカ」に光を当てている。前篇では、身近さゆえの食べ方の多様さを見ながら、日本人とイカの関わりを見てきた。活イカ、刺身、塩辛、イカ焼き、珍味と挙げていくと「けっこう食べているものだ」と気づく。

 そんなイカに異変が起きているという。「歴史的不漁」「過去最低」と報じられるほど、代表種のスルメイカが日本で獲れなくなっているらしい。後篇では、不漁の現状を見るとともに、理由や今後の見通しをイカの生態や資源状況などを長く研究している函館頭足類科学研究所・所長の桜井泰憲氏に聞いた。

日本海を北上する「秋生まれ」と太平洋の黒潮に乗る「冬生まれ」

 スルメイカは、日本海側でも太平洋側でも獲れる。「秋生まれ」は、10〜12月ごろ対馬海峡から能登半島沖で生まれ、成長しながら主に日本海を北上して稚内周辺、一部は津軽海峡を経て太平洋側まで回遊する。

 一方「冬生まれ」は、1〜3月ごろ東シナ海で生まれ、太平洋を流れる黒潮の沿岸側に沿って北上し、下北半島東岸、さらに北海道の釧路沖に至る。成長したイカがやって来る東北や北海道の沿岸・近海はよい漁場だ。漁期は6〜12月ごろとなる。

函館沖、津軽海峡におけるイカ漁の漁火。

 寿命は1年。秋生まれは日本海を引き返すように、生まれた海域で産卵する。冬生まれは津軽海峡や宗谷海峡まわりで日本海を南下し、東シナ海に戻って産卵する。

漁獲量は10万トン未満に激減

 近年のスルメイカ不漁の深刻さは顕著だ。農林水産省「海面漁業生産統計調査」によると、200海里水域制限が始まった1977年以降に限っても、1996年には40万トンを超える漁獲量を記録したこともあった。だが、その後は減少傾向で、2012年以降はずっと年間20万トンを割り込んでいる。2015年には12万9000トンに落ち込み、さらに2016年は暫定値ながら約7万トンまで激減した。