2017年1月、イリジウム・コミュニケーションズの10機の通信衛星を打ち上げるスペースX社のファルコン9ロケット。(提供:SpaceX)

 最近、「宇宙ビジネス」という言葉が大流行だ。政府の宇宙政策委員会が5月にまとめた「宇宙産業ビジョン2030」では、宇宙産業の市場規模を現在の1.2兆円から2030年代早期に倍増することを目指し、さまざまな取り組みを進めると明記されている。

 その背景には世界の宇宙ビジネスの急激な変化がある。2000年代後半の米国の政策転換によって民間企業が宇宙輸送サービスに参入。筆頭は米スペースX社だ。低コストでスピーディなロケット打ち上げで宇宙業界に革命をもたらし、有人火星飛行構想をも掲げる。「NASAよりスペースXの方が先に火星に人を送るかも」と真顔で言う宇宙関係者もいる。

 他にも多数の企業が民間からの投資を受けて参入し、宇宙業界は活性化。他分野のイノベーションと相まって、世界の宇宙産業は他産業をけん引する成長産業となっているのだ。

 一方、日本はどうか。「国からの発注(官需)が9割。JAXA(宇宙航空研究開発機構)の約2000億円の予算を大手宇宙企業が取りに行くという構造が数十年にわたって続き、新規参入が少ない。市場は成長せず魅力に乏しいために投資家が投資をしない、負のスパイラルに陥っていた」と投資会社で宇宙ベンチャーへの投資を総括し、冒頭の「宇宙産業ビジョン2030」作成に委員として関わった青木英剛氏は指摘する。

 その魅力に乏しかった日本の宇宙業界が、大きく動いたのは2015年秋。

 超小型衛星ベンチャー企業、アクセルスペース社が三井物産、スカパーJSATなどから総額19億円を資金調達。日本の宇宙開発史上初めて、ベンチャー企業が大型資金調達に成功したのだ。同社は今年中に3機の超小型衛星を打ち上げる予定で、2022年までに50機の衛星群を宇宙に構築し、宇宙から得るビッグデータを提供するビジネスをスタートさせる。

 この歴史的な大型資金調達の仕掛け人が、青木氏である。元々はエンジニア。三菱電機で国際宇宙ステーションへ物資を運ぶ輸送船「こうのとり」開発を率いた。その後、慶應大でMBAを取る。「宇宙業界出身エンジニアで宇宙ベンチャーに投資する、世界で唯一のベンチャーキャピタリスト」である。

 市場規模を倍にしようと政府がテコ入れする宇宙ビジネス。そのカギは「いかに新たなプレーヤーを創出していくか」であり、法整備など様々な支援が行われていくはずだ。では、これから新規参入するにはどんな分野が狙い目なのか? 資金をどうやって調達するのか? 宇宙とビジネスの専門家である青木さんに、基礎から教えてもらった。