列車がやってくるたびに計測の手を止め、手を振りながら見送る

 数人がかりで手際よく進めても、早朝から昼過ぎまでかかってようやく3つか4つの分岐器を計測し終えるのがやっとだ。照り付ける日差しがつらくなり、途中でそっと線路脇の木陰に逃れた筆者を横目に、藤原さんたちは続いて枕木の状態を確認し始めた。

 「11交換、14交換、18ダメ、24ダメ、28と29ダメ」と声を張り上げながら線路を歩き、使える枕木とそうでないものを1本ずつ峻別し始めた一行の姿がこの上なく頼もしく思えたのは、言うまでもないだろう。

予算内で優先付けを提案

 そんな分岐器チームと毎朝のように一緒に出掛け、線路の上で調査の様子を見守っていたのは、オリエンタルコンサルタンツグローバルの菊入崇さんだ。

 「分岐器をすべて取り替えるように言うのは簡単ですが、土木工事はMRの管轄である以上、限られた予算の中で最大限効率の良い方法を採りたいという彼らの意向を尊重し、その方策を提案してあげることが大切です」と話す。

 例えば、旅客を乗せた列車が頻繁に通過する本線上の分岐器は優先的に新しいものに交換し、現状でもまだ比較的状態の良いものがあれば、本線から分岐した支線や、車両基地などにつながる引き込み線に回すよう提案するなど、合理的な優先順位をつけるのだ。

 11月半ば、菊入さんは、全67カ所の分岐器のうち、チーミンダイン駅とインセイン駅付近の48カ所の調査結果を携えて、首都ネピドーにあるMR本社の会議室にいた。

 詳細設計図面の提出を年明け2月に控え、信号や電気、運行計画など、それぞれの専門家たちとMR側との調整が追い込みを迎える中、菊入さんもこの日、分岐器調査の概要を報告するとともに、MR側が行う軌道・土木工事の中で、分岐器はどれぐらい、どうやって交換すべきか検討を促すためにやって来たのだ。

 アウンウィン副総裁をはじめ、14人のMR幹部を前に、レールの登頂面が車輪に押しつぶされて変形・摩耗していたり、木製の枕木が腐食していたり、レールを固定するボルトが完全に抜けて紛失していたり、さらには前出のトングレールが破損し、合流すべき本線とつながらず隙間が空いていたりする分岐器の様子を、場所の詳細とともにスクリーンに映し出していく菊入さん。

 いずれも、丁寧に現場を歩いたからこそ明らかになった現在の状況だ。

 食い入るようにスクリーンを見つめるアウンウィン副総裁たちに菊入さんが続いて見せたのは、バラストがなくなり泥に半ば埋まった路盤や、継ぎ目が滑らかではなくカーブの部分で「角折れ」が生じているレール、さらに敷設時に想定外の隙間が空いてしまったのだろう、レールとレールの間に足された10cm程度の極短レールなどの写真だ。

現在の分岐器は手動で切り替える仕組みだ