中国の習主席、ティラーソン米国務長官と会談 関係強化を表明

中国・北京の人民大会堂で握手する習近平国家主席(右)と米国のレックス・ティラーソン国務長官(2017年3月19日撮影)〔AFPBB News

習近平主席による人民解放軍の大改革

 習近平主席は、2017年の秋に予想される中国共産党第19回全国代表大会に向けて、権力基盤を強化しているが、大きな要素は人民解放軍を自らの完全な統制下に置くことである。

 習主席は、2015年12月31日、中国建国(1949年)以来、最大規模の人民解放軍の改革に着手した。この改革は、既存の組織を少しいじるだけの小さな改革ではなく、多岐にわたる根本的なものであり、しかも改革の目標年を2020年に設定するなど、彼の軍改革にかける執念を感じる内容になっている。

 この大改革が成功すれば、人民解放軍は精強な軍隊になり、自国の防衛のみならず、世界で作戦を実施する手強い存在になる。我が国にとっても大きな脅威となるので、改革の動向を継続的に分析していく必要がある。

 人民解放軍の改革開始から4月1日現在で1年3カ月が経過し、徐々に改革の実態が見えてきたので、本稿においては軍改革の概要を簡単に説明するとともに、日本および台湾に対する作戦を担当する最重要な東部戦区(東部戦域軍)の改革の現状について紹介したいと思う。

 結論的に言えば、人民解放軍改革は、多くの問題を抱えながらも徐々に「戦う軍隊」になりつつあると評価する。しかし、習近平が目標としている2020年までの改革の完成は無理であると断言できる。

 なぜなら、組織を再編成して新しい組織の形(ハード)はできたとしても、組織が効果的に機能を発揮するために実施しなければいけないこと(作戦構想の確立、作戦構想に基づく訓練の実施、その成果のフィードバックなど)は多く、とても2016年から2020年までの4年間で完成しないからだ。2020年以降も改革の継続が必要となろう。

 日本の防衛に大きな影響を及ぼす東部戦区(東部戦域軍)については、艦艇や戦闘機の性能は向上し、陸・海・空・ロケット軍による統合作戦能力も徐々に向上するであろう。

 実は、自衛隊には大きな部隊レベルにおける陸・海・空の統合部隊が存在しない。自衛隊よりも先に、中国の統合部隊が、戦区レベルで戦域軍として誕生した意味は大きい。東部戦区(東部戦域軍)に対峙する自衛隊や海上保安庁をはじめとする組織の対処能力の向上が急務である。

●人民解放軍改革の目的

 改革の最大の目的は、人民解放軍を「戦って、勝つ」軍隊にすることだ。習主席は、改革を公表した2015年の時点の評価として、「人民解放軍は戦えないし、戦っても勝てない軍隊だ」と考えていた。そして、戦って勝てる軍隊にするためにはどうしたらいいかを考えて出した結論が、以下の諸点である。

(1)統合運用などの米軍方式を努めて取り入れ、真に戦い勝利する現代軍にする。

 今回の軍改革の大きな特徴は60年以上続いてきた旧ソ連軍方式から米軍方式への転換である。なぜ、米軍方式なのか。世界一の軍隊である米軍の長所を吸収するためである。

 現代戦は、5個の作戦領域(陸・海・空・宇宙・サイバー空間)をすべて使い、各軍種(陸・海・空・海兵隊など)が密接に連携した統合作戦により遂行される。統合作戦能力を向上することは、結果的に人民解放軍の伝統であった陸軍優先の伝統を排除することにつながる。

 人民解放軍改革の試みは、中国版ゴールドウォーター・ニコルス(Goldwater-Nichols)だと形容されることがある。米国のゴールドウォーター・ニコルス法は、1986年に制定され、米軍の統合運用の根拠となった法律である。

 米軍は、1986年から30年以上かけて統合作戦能力の向上を図ってきたが、いまだに問題点が指摘されることがある。ましてや共産党の軍隊である人民解放軍が統合運用をマスターするためには米軍以上の年月が必要であろう。

 なぜなら、統合運用のためには柔軟性や創造性が不可欠なのだ。共産党の軍隊である人民解放軍に米軍の様な柔軟性や創造性があるとは思えない。

 しかし、後述する戦区(戦域軍)の創設により、戦域軍司令官がすべての軍種から提供される部隊を戦力化して統合運用する「仕かけ」はできた。今後、その「仕かけ」を使い、米軍の太平洋軍などと同等のレベルの統合作戦を実行するには特段の努力が必要である。