「ブレグジット」が悲喜劇に、英ロンドンで絶賛上演中

英ロンドンの「ブレグジット:ザ・ミュージカル」で、リハーサルに臨むボリス・ジョンソン外相役のジェームズ・サンダーソンさん(左)、労働党のジェレミー・コービン党首役のスティーブン・エメリーさん(右)。首相はビッグブラザー的な人物として登場する(2016年11月16日撮影)〔AFPBB News

 “Big brother is watching you”

 テレスクリーン(双方向テレビ)が市民を監視している。絶対的支配者「ビッグ・ブラザー」は、実際には、その存在すらはっきりしない。

 「真理省(Ministry of Truth)」に勤める主人公ウィンストンの仕事は、ビッグ・ブラザーの都合に合わせ、「ニュースピーク」とよばれる新言語で、過去を書き換えること・・・。

 ドナルド・トランプ政権誕生の頃から、ジョージ・オーウェルのディストピア小説「1984年」が売れている。

 大国の大統領顧問が真顔で「Alternative fact(もう1つの事実)」という言葉を発し、フェイク・ニュースが蔓延するのは今の現実。

注意が必要な「レッテル貼り」

 昨年、オックスフォード英語辞書は「客観的事実より感情的訴えが世論形成に影響する」「Post-truth」という形容詞を「世界の今年の言葉」に選んだ。

 人々は複雑な事象をも「やさしく」説明することを求め、社会の規則さえ変え得る権力者までも短文で意を伝えるSNSを使う。

 ステレオタイプ化、「決めつけ」が横行する世で、2015年には新語流行語大賞候補となるほど安倍晋三首相をはじめ多くの政治家の口から発せられた「レッテル貼り」という言葉は、いまも、たびたび聞かれる。

 安易な作りのテレビドラマやポンコツ映画には「テロリスト→アラブ人」「金融業→ユダヤ人」といったステレオタイプな人物設定が多い。一度貼られたレッテルをきれいにはがすのは実に難しい・・・。

 「史上最低」とのレッテルを貼られた映画監督エド・ウッドの代表作『プラン9・フロム・アウタースペース』(1959)。セットのチープさ、台詞のくだらなさ、演出のいい加減さ、演技の稚拙さ、そのポンコツ映画ぶりは、想像をはるかに凌ぐ。

 あまりのポンコツぶりに、皮肉にも、いまや「カルト・クラシック」として顧みられる存在となっている。

 『魔人ドラキュラ』(1931)のドラキュラ役で強烈な印象を残したハンガリー人俳優ベラ・ルゴシは、『グレンとグレンダ』(1956)『怪物の花嫁』(1956)と、晩年、エド・ウッド作品への出演が続いた。

 「自由社会」を掲げる米国は、裏で赤狩りの恐怖を振りまきながらも、その大衆文化を西側世界に深く浸透させ、ホラー映画も次々制作された。しかし、ジャンルのスター、ルゴシは仕事に恵まれなかった。

 常にそのイメージがつきまとい、似たような役柄ばかりという「Typecast」に悩まされながら、低予算B級作に出演するしかなかったのである。

 ティム・バートン監督の『エド・ウッド』(1995)にも、その借金、薬物まみれの晩年の姿が描かれているが、1956年8月、ルゴシは、失意のなか、ドラキュラのマントとともに、棺の中で永遠の眠りについた。

 それから2か月後、祖国ハンガリーでは、勤労者党一党独裁に対し民衆が蜂起、ソ連軍が介入する事態となり、ブダペストの街は血の海と化した。

 「小スターリン」ラーコシ・マーチャーシュ書記長の恐怖政治が続いたハンガリーでは、1953年のヨシフ・スターリンの死後、「改革派」が台頭、ナジ・イムレが首相となった。56年7月には、ソ連の圧力でラーコシは書記長の座も追われるが、後任のゲレー・エルネーもスターリン主義者。

 10月、その退陣を求めたデモ隊と秘密警察が衝突、勤労者党は失脚していたナジの首相復帰を決定する。すでに介入を始めていたソ連軍は、一度は撤退へと向かったが、結局、再介入。

 3000人余りが犠牲となり、20万人とも言われる人々が難民となった。ナジは秘密裁判にかけられ、1958年6月、絞首刑。再編され名を新たにしたハンガリー社会主義労働党をカーダール・ヤーノシュが長期にわたり率い国を治める時代が訪れることになる。