米駆逐艦がイラン艦艇に警告射撃、ホルムズ海峡で異常接近

米バージニア州ノーフォークの海軍基地を出港する米駆逐艦「マハン」〔AFPBB News

 我が国を取り巻く安全保障環境の動向を考察する際に、米軍と人民解放軍(PLA)の軍事バランスを分析することは重要である。特にアジア太平洋地域における米海軍と人民解放軍海軍(PLAN)の将来動向を分析することは不可欠である。

 筆者は現在、ハーバード大学アジアセンターで日米中の安全保障関係を研究しているが、同じ建物の中に中国研究のメッカであるフェアバンクスセンターがあり、毎週数本の面白いセミナーが行われている。

 筆者自身も3月3日に人民解放軍に関するセミナーを主宰したが、その際に、米海軍大学のアンドリュー・エリクソン(Andrew S. Erickson)教授が司会の役目を引き受けてくれた。

 海軍大学は、ボストンから比較的近いニューポートに所在し、同大学の教授と付き合う機会も増えてきたが、人民解放軍海軍に関する研究では世界最高峰の研究者が揃っていると思う。

 本稿においても、米海軍大学の研究成果特にエリクソン教授が編者となり出版された「中国の海軍艦艇建造」(“Chinese Naval Shipbuilding”)の研究成果を紹介するが、人民解放軍海軍が急速にその戦力を増強し、2030年に数の上では人民解放軍海軍が米海軍を凌駕することを知ってもらいたいと思う。

 当然ながら質の面では米海軍が優位性を保つ分野が多いと思うが、量で劣勢になることはアジア太平洋のパワーバランスに大きな影響を与えることになるので注意が必要だ。

 一方、ドナルド・トランプ氏は、大統領選挙期間中の9月に大軍拡計画である「力による平和(Peace through Strength)」を提唱し、その中で350隻海軍を公約として掲げた。

 しかし、最近の分析記事を読むと米国の造船業界およびその関連サプライチェーン(原料の段階から製品やサービスが消費者の手に届くまでの一連の工程)における諸問題が指摘され、350隻海軍の実現が簡単なものではないことが明らかになってきた。その状況も中国の状況と対比しながら説明したい。

トランプ政権の350隻海軍と米海軍の355隻海軍

●トランプ政権の350隻海軍

 トランプ氏の最初の60日は挫折の連続であった。移民制限に関する大統領令は裁判所に拒否され、オバマケアの代替となるトランプケアの実現にも失敗した。安全保障を研究する筆者にとって特に心配になるのが、「力による平和」の行く末である。

 「力による平和」の最重要な公約として、米海軍の艦艇数を現在の275隻から増強し、米海軍350隻体制にするという平時における史上最大規模の海軍増強計画を発表した。この米海軍350隻体制が挫折してもらっては困るというのが筆者の思いだ。

●米海軍の355隻海軍

 米海軍が大統領選挙におけるトランプ氏の勝利(昨年11月8日)を見届けて、12月15日に提案したのが355隻海軍体制である。当時のアシュトン・カーター国防長官が火事場泥棒的な海軍案に対し激怒したように、トランプ勝利に便乗した海軍増強案という厳しい見方もできよう。

 いずれにしろ、海軍が示したFSA(戦力構成評価)によると、空母12隻、大型水上戦闘艦艇104隻、小型水上戦闘艦艇52隻、両用戦艦艇38隻、攻撃型潜水艦66隻、弾道ミサイル潜水艦12隻、戦闘兵站艦艇32隻、遠征迅速輸送/高速輸送艦艇10隻、遠征支援艦艇6隻、指揮支援艦艇23隻、合計355隻海軍の提案であり、トランプ政権案の350隻よりも多い案である。海軍はしたたかである。

米海軍350隻体制の実現の可能性

 中国人民解放軍海軍が2030年に415隻体制を構築する可能性が指摘されている中で、米海軍の350隻体制の構築が急がれるが、米国には造船業界が抱える諸問題があり、すんなりと350隻体制が達成されるかどうか分からない。

●ニューズ・ウィーク誌が伝える諸問題

 ニューズ・ウィーク誌の記事*1は、350隻海軍の実現には大きな問題があると指摘している。まず、予算の確保の問題であり、次いで熟練工等の確保やサプライチェーンの問題だ。

*1=Reuters, “Trump’s Navy Warship Expansion Plan Faces Major Obstacles”, News Week