●潜水艦の危機

 海軍の増強特に潜水艦部隊の増強計画により深刻な能力不足問題、サプライチェーン問題がある。また、潜水艦の造船所で働く場合、秘密保全の基準をクリアするのが難しいという問題もある。

 原子力潜水艦を製造してきた造船所(ジェネラル・ダイナミックスのエレクトリック・ボートやハンチントンのニューポート・ニューズ)は、1980年代には1年間に7隻の原子力潜水艦を製造してきたが、直近の10年間は1年間に2隻以下しか製造していない。

 例えば、ヴァージニア級とコロンビア級の原子力潜水艦は規模が最大でしかも最も複雑な潜水艦だが、コロンビア級1番艦は2021年に製造を開始し7年間かけて完成し、その後に2~3年の試験が必要だ。つまり戦力化するまでには製造を開始してから10年はかかる。

 より大きな問題は、サプライチェーンを拡大することだ。潜水艦の部品メーカー、例えば炉心、大きな鋳物、プロペラやシャフトの鍛鉄は、製造を2倍にするのに5年はかかるという。

 「年2隻の潜水艦のための産業基盤を作ってきた。その上に1~2隻を追加できない。年2個の炉心だったのに年4個は作れない」との声もある。

 また、長い間眠っていた造船所のスペースを入れ替えるには、数年間の年月と資金の投入が必要になるなど解決すべき問題は多い。

中国人民解放軍海軍(PLAN)は2030年までに主要艦艇415隻体制

 一方、人民解放軍海軍の艦艇数の将来予測はどうなっているか。

●米海軍大学の予想:2030年に主要艦艇415隻体制

 英国のRUSIに所属するピーター・ロバーツによると、人民解放軍海軍は500隻海軍を目指していると主張している*2

 しかし、彼のリポートの根拠は米海軍大学の研究*3を根拠としている。また、ジェームズ・ファネル(James E. Fanell)などのリポート*4も米海軍大学がスポンサーになった研究(つまりエリクソン教授等の研究)に基づき、中国海軍の2030年における艦艇数は主要水上艦艇430隻、潜水艦100隻、合計530隻体制になると主張している。

 しかし、この530隻は非常に紛らわしい数字であり、機雷戦用の小艦艇や補助艦艇(合計120隻)を含んだ隻数である。結論として、米海軍の350隻(主要水上艦艇と潜水艦の合計)と比較するためには下図(「人民解放軍海軍の主要艦艇隻数の推移」を表している。

 出典:「Chinese Naval Shipbuilding」)の右下に記載している415隻が適切な数字である。500隻とか530隻ではなくて、415隻を2030年における人民解放軍海軍の隻数とする。

 なお、各年の主要艦艇の隻数は以下のとおり。

2016年:潜水艦数66隻、主要水上艦艇237隻、合計303隻
2020年:潜水艦数69~78隻、主要水上艦艇244~264隻、合計313~342隻
2030年:潜水艦数99隻、主要水上艦艇316隻、合計415隻


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*2=Peter Roberts, “CHINA’S 500-SHIP NAVY SUDDENLY APPEARS ON THE HORIZON”

*3=Andrew S. Ericson編,“Chinese Naval Shipbuilding ”,Naval Institute Press

*4=James E. Fanell、Scott Cheney-Peters、“Defending Against a Chinese Navy of 500 Ships”、WSJ