1枚の葉をここまで食卓の華にしてしまう日本人

桜餅にもみじ天ぷら:食を彩る季節の葉っぱ

2017.03.10(Fri) 長沼 明子
筆者プロフィール&コラム概要

 このあたりの土地では、もともと炭焼きが広くなされていた。研究者によると「炭作りのための原木は雑木であり、なら、くぬぎ、桜といった種類のものであったが、この桜の木々の間に自生した若木につけた桜葉を塩漬けにすると、よい香りを出すことが昔から知られていて、桜葉漬が業者によって行われていた」(『調理科学Vol.19』吉田静代)という。

 よい香りは前述の「クマリン」によるものだが、葉の持つ成分が塩漬けにより発酵することで、芳香成分が出てくる。市販の桜餅に使われている葉は、最低半年以上の漬け込みを経てできているのである。

栽培されることが少ない「木の葉」

 桜餅の由来は、江戸時代中期に山本新六という人が考案し、隅田川沿いの長命寺で売り出したたことにある。土手の桜の葉を使えないかという発想から工夫し、塩漬けの葉の形で用いるようになったという。その商売は今も隅田川沿いで「向島 長命寺 桜もち」として続き、昔ながらの味を守っている。

 そうはいっても、樹木の葉はそう食用に使われるものではない。

 たしかに、古くから食べられる野生種は研究されており、先人の知恵により、今、食卓に上っている野草は多くある。だが、樹木の葉を食材として見ることは少ない。

 名主として名高い米沢藩主の上杉鷹山は、藩医に指示して『かてもの』という書を発行した。食べられる植物を研究し、食べ方や貯蔵方法を示したものだ。領内に広く頒布したことで飢饉の際にも役立ち、今は米沢の郷土料理にも浸透している。

 82種もの植物が記されている中に、やはり樹木の葉は多くない。「ドロノキ」の葉や「タニウツギ」の葉など、いくつかは挙げられているが、圧倒的に多いのは「野草」であり、また部分としても茎、実、芽になってくる。

 あらためて、身のまわりに生えている草木を眺めても、「食べられそう」と思わせるのはもっぱら柔らかいものだ。高木になるほど繊維質で固い葉が多く、とても口に合いそうにない。

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教材出版社で編集を担当した後、企業の経営課題や人材育成を行う団体に転職。研究調査や研修企画などを行った後、独立。人材や組織に関する取材や記事作成、イベント企画などを多く行ってきた。


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