(英エコノミスト誌 2017年3月4日号)

ジブラルタルのファビアン・ピカルド自治政府首相とジブラルタルの航空写真(2013年8月23日撮影)。 Photo by InfoGibraltar, under CC BY 2.0.

これから行われるブレグジットの交渉で、ジブラルタルは英国とスペインの関係の難題になる可能性がある。

 夜が明けると、朝日を受けてナツメヤシの葉が輝き始める。狭い海峡を隔てた向こう側はアフリカ大陸で、その海岸にともる明かりは2月のもやのために点滅しているかに見える。岩山が落とす影のせいでまだほの暗いスペイン側の海岸通りには、小型のバイクやトラック、乗用車が列を作って待っている。排ガスの臭いが鼻をつく。歩道では数組の親子連れが、国境を目指して足を速める。

 パスポートのチェックを済ませると、今度は赤い電話ボックスや新しい洒落たターミナルビルの前を通り過ぎ、街の中心部に向かうバスに飛び乗る。運転手は英語とスペイン語を使い分けながら乗客に声をかけ、アクセルを踏んで滑走路を横切っていく(飛行機が着陸するときは踏切が降ろされ、半島は少しの間切り離される)。

 上空から見ると、ジブラルタルは腫れ上がった盲腸のような形をしている。スペインの南部に突き出た、細くて一部だけ膨らんだ指のようでもある。またこれとは別の、歴史が遺した不思議な街という意味で盲腸に例えられることもある。ジブラルタルは、フェニキア人からローマ人、ムーア人、スペイン人へと支配者が代わった後、ユトレヒト条約によって1713年に英国の手に渡った。

 数世紀に渡ってコスモポリタンな港町――地中海への玄関口――に位置づけられ、ジェノバ人やユダヤ人、マルタ人、モロッコ人、英国人、スペイン人が行き交った結果、ジブラルタル人はさまざまな民族の血が混じったコスモポリタンな集団となっている。英語とスペイン語、さらにはヤニト語(スペイン語の方言)を使って暮らしており、これらを文ごとに、とき文の途中で切り替えて話したりする。

 それでもここは、いろいろなものが英国の田舎とほとんど変わらない。電気のコンセント、交通信号機が出す電子音、あちこちに掲げられたユニオン・ジャック、「ザ・ホースシュー」というような名前のパブ、小売店のチェーンなど、いずれも本国と同じだ。

 この矛盾を端的に現しているのが建築物だ。ここでは、上げ下げ窓がついたエドワード朝様式の戸建て住宅、モダンな高級マンション、そして見るからに地中海風の建物(屋根が平らで大きなよろい戸がついている)が混在しているのだ。イングランド南部の港町ポーツマスと、イスラエルのテルアビブを足し合わせた感じだろうか。