IBMが2015年に発表した4つのキュービットから成る量子回路。 Photo by IBM Research, under CC BY-ND 2.0.

 世の中では量子コンピューターが熱い話題を振りまいています。

 量子コンピューターの研究会が無数に開かれて、量子コンピューターを製作する(と称する)企業が相次いで立ち上がり、グーグルやインテルやマイクロソフトなど業界大手が資金をどばどば注いでいると報道されます。

 量子コンピューターの時代が到来すれば、既存のコンピューターの原理的な限界が突破され、超高速演算が可能になり、分子構造が瞬時に解析され、今の通信技術に使われている暗号は片っ端から解読される、などと景気のいい噂が飛び交います。

 しかしその量子コンピューターとはいったいどんな代物なのでしょうか。なぜそのような期待が集まっているのでしょうか。

 ここでは量子コンピューターの基本を、本当に基本から紹介しましょう。実は量子コンピューターがどういうものになるのか、誰も正確なところを知りません。

量子コンピューターの「り」は量子力学の「り」

「量子力学」は、原子や電子や分子や素粒子など、ミクロな粒子やミクロな物体の振る舞いを説明する物理学です。

 原子や電子や分子や素粒子などのミクロな存在について知られるようになってきたのは20世紀初めですが、そういうミクロな世界はそれまで人類の知っていたマクロな世界と全然違いました。なにしろ、「2個の物体は、同時に同じ場所に存在できない」とか、「物体と波は別物」といった常識すら通用しないのです。