ルーマニアの首都ブカレスト。旧共産党本部前に建つモニュメント(筆者撮影)

 ルーマニアで政府への抗議デモが続いている。

 ニコラエ・チャウシェスク独裁政権を崩壊へと追い込んだ1989年12月の革命以来の大規模な抗議行動は、昨年12月、政権奪回したばかりのソリン・グリンデアヌ首相の社会民主党(PSD)政権が、刑務所の過密化対策を理由に、汚職金額が4万4000ユーロを超えなければ禁固刑に処せられない、としたことから始まった。

 「泥棒!」と叫ぶ者もいる。リヴィウ・ドラグネアPSD党首の写真を持った者もいる。

 私腹を肥やす政治家や高官、特に、2万4000ユーロの汚職疑惑に問われているドラグネア党首救済策だ、と国民の怒りが爆発したのである。

汚職まみれのコネ社会ルーマニア

 政府は法令撤回、しかし、修正案の提出もささやかれており、抗議活動は続いている。

 デモ発生とほぼ時を同じくして、日本での劇場公開が始まった『エリザのために』(2016)には、汚職まみれのルーマニアのコネ社会の現実が映し出される。

 暴漢に襲われ、動揺するエリザは、翌日行われた卒業試験で満足のいく結果を残せなかった。目指す英ケンブリッジ大学留学には、次回、満点近い成績が必要となりそうだ。

 警察病院外科医の父親ロメオは、コネ社会のこの国にあっても、患者から謝礼を受け取らないような人物。しかし、友人でもある警察署長を通し、副市長、試験委員長、と、コネを使い不正をしてでも、娘を留学させようと・・・。

 自然に恵まれたルーマニアの国土は変化に富み、中央を「つ」の字に走るカルパチア山脈で、大きく3つの地域に分けられる。

 首都ブカレストのある南部平原地帯ワラキア。独特の文化の香りがする修道院が観光資源ともなっている北東部モルドヴァ(モルドバ、モルダヴィア)。北西部に広がる「吸血鬼ドラキュラの地元」トランシルヴァニア。

 映画の舞台は、トランシルヴァニア地方ほぼ中央に位置するクルジュである(ロケ地は同じトランシルヴァニア地方ブラショフ県ヴィクトリア)。

 長くハンガリーの影響下にあり、今もハンガリー人が多く暮らす東西交通の要衝は、ルーマニア最大の大学にして東欧有数の一流校バベシュ・ボーヤイ大学など、多くの国立・私立大学が集中する大学都市である。

 そんな地にあっても、娘を海外留学へ、との願いは切実だ。1991年、新たなる理想社会の到来を期待し、革命後のルーマニアに帰国した過去をもつロメオの姿には、同世代であるクリスティアン・ムンジウ監督の母国の現実への厳しい眼差しが重なる。

 ブカレストの「セレブ」が主人公の『私の、息子』(2013)も、不正が常態化した現実描写が生々しい。