私は瞬間的に説教してやろうかと思った。農業はそんなに甘い仕事ではない、重労働で汚れ仕事も多くて、かわいいなんていう甘っちょろい考え方が通じる世界ではないんだ、云々、という言葉が次々に頭に思い浮かんだ。

 しかしどうしたわけか、その時はグッとこらえることができた。そして「どうしてそう思ったの?」と訊いてみた。すると彼女から次々アイデアが湧いてくるではないか。

女性の「どうせなら」という発想が、カラフルな軽トラを生み出した。(画像は学生が描いたイラスト、以下同)

「軽トラの荷台にカーペットを敷いて寝そべれるようになれば、彼氏と一緒に夜空の星を眺めたり、いい天気の日には座ってピクニックのようにお弁当を広げたり」と、軽トラのイメージを覆す、荷台を居住空間として捉え直すアイデアが出てきた。

素直なアイデアが、軽トラのイメージを大きく変える。

 この話から、私は「女性が革命を起こした分野」があったことを思い出した。ナイチンゲールが現われる前、看護婦(今は看護士という)は「どうせ汚れるから」と、患者の血や膿で汚れたままの服でいるので軽蔑されていた。

 ところがナイチンゲールは、汚れたら清潔な服に着替える、汚れたら部屋をきれいに拭くという、今の時代なら常識である衛生問題に気を遣うことで、二次感染で死ぬ患者を激減させた。この結果、衛生改善が医療では大切だということが常識となり、清潔感のある看護婦は女性の憧れの職業にもなった。

 トイレも女性が革命を起こした商品の1つ。ある女子大生が卒論で、観光地とトイレの問題を扱った。観光地を繰り返し訪れるリピート率は、女子トイレが充実しているか、清潔に保たれているかが重要なファクターだと看破した見事な卒論で、当時は新聞でも話題になった。

 その後、その女性がトイレメーカーに就職すると、目に見えて日本中のトイレが快適空間に生まれ変わっていき、今では「ここ、用を足していいんですか?」と思わせるようなきれいなトイレが増えていった。

 それまでトイレは「どうせ」汚れる場所だと思われていたのが、「どうせなら」快適に過ごせる空間にしよう、と考えた女性の発想が、世界に通用する日本のトイレ商品に生まれ変わらせたのだ。