イノベーションのスタートは、場をつくって他人と「共感・共振・共鳴」することです。相手に感情移入し、相手になりきる。それができて初めて自分の視線から出て、相手の視点から世界を見ることができるようになります。

平鍋 コンパは自分の主観を周りの人と対話して共有する場だということですね。

野中 肩を寄せ合って鍋をつついて飲んでいるうちに個が消失して一体化していきます。率直な対話がどんどん染み込んでいって、身体化していくわけです。相互主観性というものを絶えず生み出していく場という意味で、コンパ経営もアジャイルスクラムも根底で通じ合っています。

アジャイル開発が人をつくる

藤井 アジャイル開発を導入する前は、米国生まれの開発手法とKDDIの日本的な組織文化とは相性が悪いのではないかという心配がありました。けれども実際に導入してみると、KDDIのフィロソフィにとてもフィットしているようです。

野中 京セラフィロソフィには「働くことは人をつくる」ことだとありますね。働くことは、自己実現や人間形成に通じる「精進の場」だと言っている。やっぱりどんな仕事でも主体的にコミットすると、必ず何かを得ることができるんですよ。アジャイルスクラムはそういう場として捉えることができますね。

平鍋 私は最近アジャイル開発の「働き方」への関心が高まっていることを感じます。ソフトウエアエンジニアリングというよりも、社員が生き生きと楽しく働ける環境やチームをどう作るかといった観点からアジャイル開発について話をされる方が増えました。

野中 稲盛さんによると、仕事というのは苦行ではなくて、神から与えられた天職なんですよね。だから全身全霊で打ち込むんだと。仕事に無心になるということは究極の幸福みたいなものにつながっていく。アジャイル開発は、どこかでその幸福につながっているのかもしれません。

 冒頭に紹介したセミナー「Digital Innovation Leadership ~ビジネスを創造する組織戦略~」(2月15日開催)では、野中氏の論文を基にソフト開発手法としてのスクラムを提唱したジェフ・サザーランド博士も登壇する。アジャイル開発を経営全般の革新手法と位置づけ、最新の経営理論と先進企業の導入事例を紹介する本セミナーに、ぜひ足をお運びいただきたい。