その論文を90年代半ばに米国のソフトウエア開発者ジェフ・サザーランド氏が発掘した。「ソフトウエア開発の世界を変えたい」と考えていたサザーランド氏は、チームワークと生産性に関する論文を読み漁る。その際、出合ったのが野中氏らの「The New New Product Development Game」だった。論文に大きな影響を受けたサザーランド氏は「スクラム」をソフトウエア開発手法として提唱し、それが日本にも逆輸入されているというわけだ。

 野中氏は、スクラムの正体はまさに知識創造プロセスに他ならないという。アジャイル開発に取り組む組織やメンバーには一体何が起きているのだろうか。

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メンバーの働きがどんどん自律的に

平鍋健児氏(以下、敬称略) KDDIさんでは2013年からアジャイル開発を導入していますね。藤井さんの部署では新サービスの開発にアジャイルを取り入れたことで、組織やメンバーはどう変わりましたか。

藤井彰人(以下、敬称略) それまでは完全にウォーターフォール型の開発でした。企画担当部署があって、開発部署があって、サービスを安定的に運用するオペレーション部隊があって、それぞれが完全に分かれているんです。新サービスを開発する際は、企画担当が作った企画書を開発に渡して、開発が物を作り、それを運用するという流れです。すると、それぞれが前の部署に文句を言うんですね。開発が企画担当に「何でこんな企画を持ってくるんだ」とか、運用は開発に「何でこんなものを作るんだ」と言うわけです。

 それを見ていて、みんないいものを作りたい、いいものを提供したいと思っているのに、なぜこんなに文句ばかり言って、つまらなそうにやっているのかなと。これは変えなければならないと思いました。

 そこで、まずは小さなチームからスクラムで始めてみました。最初は慣れないのでつまずきながらだったのですが、ある頃からメンバーの動きがどんどん自律的になっていき、最近では私が主導しなくてもメンバーからどんどん要望や改善のアイデアが上がってくるようになりました。

藤井 彰人氏
KDDI ソリューション事業企画本部 副本部長
大学卒業後、富士通、Sun Microsystems、Googleを経て、2013年4月より現職。Sun Microsystemsでは、Solaris/Java関連ソフトウエアを担当、プロダクトマーケティング本部長や新規ビジネス開発を担当。Googleでは、企業向け製品サービスのプロダクトマーケティングを統括。過去にMashup Award 1-4を主宰し各種開発者向けイベントの支援。2009年より情報処理推進機構(IPA)の未踏IT人材発掘・育成事業のプロジェクトマネージャーも勤め、若者の新たなチャレンジを支援している。