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すっきりとした答えが出ないという質的調査の特徴は、その「方法」にも当てはまる(写真はイメージ)

(文:峰尾 健一)

質的社会調査の方法 -- 他者の合理性の理解社会学
(有斐閣ストゥディア)
作者:岸 政彦
出版社:有斐閣
発売日:2016-12-19

 タイトルや副題を見ると、やや小難しそうな雰囲気だ。有斐閣の本ということで堅めな教科書のような内容を想像していた。しかしひとたびページをめくると、こんな一文が目に飛び込んでくる。

“質的調査の教科書を書いてください、という依頼を受けたとき、最初に頭に浮かんだのは、マニュアルのような教科書よりも、読み物として読んで面白い本を作りたい、ということでした。”

「分析や解釈できない出来事」について綴られたエッセイ『断片的なものの社会学』の著者としても知られる社会学者、岸政彦氏によって書かれたまえがきの冒頭である。本書『質的社会調査の方法』は岸氏と2人の若手研究者が、質的調査の手法についてまとめた一冊だ。

「読み物として面白く」という狙いは宣言だけでは終わっておらず、最後まで挫折せずに面白く読み通すことができた。広い意味で社会に興味はあっても「社会学」となると小難しさを感じて敬遠しがちだったのだが、まずは本屋で社会学の棚をじっくり眺めることから始めようという気持ちになった。

「気分」が論文の方向性を左右する

本コラムはHONZの提供記事です

 質的調査とは、簡単にいえば「数字を使わない調査」のことだと書かれている。インタビューや聞き取り、歴史的資料の収集など、「質的」なデータを集めて分析する質的調査では、量的調査のような切れ味のよいクリアな知識を得ることはほとんどない。得られる知識も、あやふやな、まとまりのないものになりがちである。とはいえ、「社会学の調査が、量的調査と質的調査にそれほど単純にはっきりと分かれるとは思っていません」ともあるように、実際に調査を行う上でそこまではっきりとした区別があるわけではない。