東大寺にある国宝の南大門(ウィキペディアより)

前回まで:外資系金融機関に勤め、数千万円の年収を手にしていたエリート金融マンだったが、顧客と一緒に海外の機関投資家を回るうち、世界では日本の地方にある伝統工芸品が非常に高く評価されていることを目の当たりにする。

 日本の本当の価値を知らないのはむしろ日本人の方なのではないか。そう思い始めたら居ても立っても居られなくなり、高額の年収をかなぐり捨てて日本の伝統工芸士巡りの旅に出た。

 そして奈良の薬師寺に来たとき高名なお坊さんに出会い、枯山水の庭のある建坪350坪の物件を紹介される。ここを自由に使っていいという。そこで閃いたのがイタリア料理店だった。

 日本の古い伝統に西洋の文化をあえてぶつける。文明の衝突で生まれる斬新な何かを期待したのだ。結果は超弩級の大ヒットとなり、日本中からお客さんが殺到した。

ウェディング営業ではあえて
地元のカップルを外した理由

 ここでもうひと押し、安定した売り上げを作る企画として打ち立てたのがレストランウェディングのプランでした。これは何としても軌道に乗せたいと思っていました。

 そこで奈良県内の結婚事情を調べたところ、意外なことが分かりました。

 それは、地域に住む若者たちの多くは、結婚式と披露宴を、京都や大阪、神戸などのお洒落なホテルやレストランでやりたがっている、ということでした。

 地元で結婚式を挙げたくない――これは多くの地方で同じことが起こっているのではないでしょうか。

 大人も若者も田舎にコンプレックスを抱えているのです。そんな地元の人たちの思いに応えるかのように、市内にも2か所ほどお洒落な式場がありました。都会に負けない結婚式ができるという触れ込みで売り出していたのです。

 なんとか若者たちに地域で結婚式を挙げてもらいたいという思いは感じられます。しかし私はそんな事情を見るにつけ、「真逆の発想でいこうよ」と関係者に提案しました。

 奈良は、かつての日本の都、平城京があった土地です。日本の歴史の礎とも呼べるものがこの地には眠っているのです。そこに誇りを持てないでどうするのか――そのことです。

 そもそも奈良の若者たちをいかに取り込むか、という「引き止め型」の考え方でウェディングをしても儲からないのは目に見えていました。「ならばいっそ、他県から奈良で結婚式をしたいと思わせるような企画を立てようじゃないか」と考えたのです。

 全国には47の都道府県があります。その中の1を狙っても仕方がない。その1を除く、46を相手にビジネスをしよう。奈良でしかできないウェディングを企画して、47分の46を相手にビジネスをしようじゃないかということです。

 これは地元の人たちが自信を取り戻すためのチャレンジだと私は宣言しました。そう「地方復権」のアプローチの1つとして、私はこのウェディングプランに取り組むことにしたのです。

 では、奈良でしかできない結婚式とは何か。

 さらに業界情報を調べていくと、奈良のお寺にはお墓がなく、お寺で仏式の結婚式ができる土地柄だということが分かりました。

 さらに、奈良時代に行われた神仏習合の習わしが今も残っていて、奈良にはほとんどのお寺の敷地内にその氏神様である神社があることも知りました。