(英エコノミスト誌 2016年12月10日号)

米企業の国外移転は「代償伴う」 トランプ次期大統領が警告

米インディアナ州インディアナポリスにある空調設備大手キヤリアの工場を視察するドナルド・トランプ次期米大統領とマイク・ペンス次期副大統領(右、2016年12月1日撮影)。(c)AFP/TIMOTHY A. CLARY〔AFPBB News

次期大統領は新しいアプローチで米国企業に接する。すべてが朗報ではない。

 大統領就任までまだ6週間あるにもかかわらず、ドナルド・トランプ氏は早くも米国産業界に衝撃を走らせている。煩わしい規制を減らし、法人税を引き下げ、インフラ投資で経済を活性化させるという公約に、企業の経営者と株主は有頂天になっている。ブルーカラーの労働者も、企業に圧力をかけて雇用を維持させてもいいというトランプ氏の姿勢に大喜びだ。

 トランプ氏はここ数週間、「iPhone(アイフォーン)」の部品を米国内でもっと作ろうとしないアップルを厳しくとがめたり、多目的スポーツ車(SUV)「リンカーン」の生産移転を計画中のフォード・モーターに長々と説教したりしてきた。また、ボーイングの最高経営責任者(CEO)が保護主義的な通商政策のリスクについて、公の場で自問自答した時には、さほど時を置かずに同社に食ってかかった。

 最も劇的だったのは、インディアナ州の空調機器メーカー、キヤリアを経営支援策で抱き込み、メキシコへの生産移転計画を変更させて同州内の800人分の雇用を維持させたことだ。ある世論調査では、米国人の10人に6人が、このキヤリアの一件の後、トランプ氏に対する印象が良くなったと答えている。この豪腕ぶりは人気を博している。

 人気はあるが、問題もある。トランプ氏が企業に向けて繰り出し始めた戦略には有望な要素もあるものの、非常に心配な要素も見受けられる。

 例えば、法人税改革に対する熱意やインフラ投資の受け入れ、そして規制緩和案の一部には期待が持てる。しかし、まず、トランプ氏の企業に対する態度の背後には混乱した重商主義があること、そして、目標達成のためには個々の企業を攻撃したりカネで丸め込んだりする戦術も厭わないことには危うさが潜んでいる。

 米国の資本主義が繁栄してきたのは、どんなルールがどのように適用されるかが予測可能だったからだ。もし、ルールを基盤とするこのシステムがどこかで退けられてしまい、「ドナルド王」の気まぐれに留意したり、敬意を表したりしなければビジネスができないというその場限りのアプローチが採用されたら、米国経済には長期にわたって深刻なダメージが及ぶことになるだろう。