(英フィナンシャル・タイムズ紙 2016年11月19/20日付)

藻を食べる魚2000万匹を放流、水質改善めざす 中国・太湖

中国東部・江蘇(Jiangsu)省蘇州(Suzhou)の太湖(Taihu Lake)で、産業排水などのせいで大量発生した藻を除去するために放流される魚(2009年2月23日撮影)。(c)AFP〔AFPBB News

 毎年秋になると、香港のレストランは季節の珍味を客に提供する。中国・蘇州市界隈の湖から当日運ばれてきた毛ガニだ。

 ところが、香港の食品衛生当局が衝撃的な発見をした。今年の毛ガニの一部に、危険なレベルの発がん性化学物質が含まれていることが分かったのだ。さらに悪いことに、問題の毛ガニは、太湖から運ばれてきたようだった。何年もの歳月と莫大な資金をかけた浄化を経て、中国の環境汚染との戦いのモデルとなった場所だ。

 浄化は失敗したのだろうか。それとも何か別の問題があるのか。カニの養殖を営むワン・ユエさんに言わせると、その答えは「沐浴蟹(水浴びするカニ)」にある。太湖の産地ブランドが付くが、この湖では最低限の時間しか過ごしていないカニのことだ。

 ワンさんと家族は、太湖の浅瀬の竹製のくいに吊り下げたかごで数百匹のカニを養殖している。彼の推定では、カニの市場規模はワンさんのような家族が生産できる量の3倍に拡大しており、そのため、プレミアム価格で売れるよう、よそで養殖されたカニが数日間だけ太湖に運び込まれる。これがカニの水浴びとして知られる過程だ。

「水が新鮮だから、ここのカニは甘くておいしい。けれど、ほかの町の人には違いが分からない。カニが太湖でとれたふりをすることで大金を稼げる人がいる」とワンさんは言う。

 太湖と近くの陽澄湖は、最高級の毛ガニの産地だ。だが、ほかの場所――近くの湖や、旧水田や太陽光発電所の地下に掘られた池など――で養殖されたカニがあまりに多いために、値崩れが起き、太湖の養殖業者は採算を合わせるのに苦労している。

 沐浴蟹騒動は、中国の食の安全に関する典型的なニュースのように見える。生産の爆発的な増加が品質の監督能力を上回っているのだ。だが、より大きな問題は、環境汚染の原因となっている中国業者が落とす長い影だ。

 ショーケースとなる環境浄化の取り組みは、太湖の水質を大幅に改善させた。だが、莫大なコストをかけた成功は、中国の大きな土壌汚染危機に対処するうえで大して役に立っていない。