(英フィナンシャル・タイムズ紙 2016年11月17日付)

【写真特集】トランプ氏勝利で歓喜に沸く支持者たち

オーストラリア・シドニーで、大統領選挙の結果を伝えるニュースに歓声を上げる、共和党候補ドナルド・トランプ氏の支持者(2016年11月9日撮影)。(c)AFP/SAEED KHAN〔AFPBB News

 1989年の、ベルリンの壁が崩壊する数カ月前のこと。筆者はイングランド北東部沿岸のグリムズビーという町にある冷凍食品工場を訪問した。当時、食品大手ユニリーバの傘下にあったバーズ・アイ・ウォールという会社が経営している工場で、労使協調の成果を勝ち取ったばかりだった。

 工場の従業員たちは賃金引上げの見返りに、人員の削減とチームを組んで作業をする体制への移行、再訓練の受講と生産性拡大を受け入れたのだ。同じイングランドの西部、マージーサイド州カークビーにある同社の工場でも同じことが提案されたが、そちらの従業員はこれを拒否し、工場は閉鎖されることになった。

 グリムズビーも難を逃れ続けることはできなかった。ユニリーバは、この工場は規模が小さすぎるし効率も悪いと判断し、2005年についに閉鎖に踏み切った。放置された工場の建屋はその後、火事に見舞われた。ユニリーバはバーズ・アイをプライベート・エクイティ・ファンド会社のペルミラに売却し、ペルミラは同社を欧州の他の冷凍食品会社と合併させた。

 筆者は今年6月、英国の欧州連合(EU)離脱の是非を問う国民投票で、離脱に賛成する票の割合が最も高かった町の1つにグリムズビーが入ったことを知り、あの荒れ果てた工場のことを考えた。そして先日、ドナルド・トランプ氏が米国の大統領に選出されたときにも、再びあの工場に思いをはせた。貿易や人の移住の障壁が低くなってグローバル化の号砲が鳴った1989年以降、同じことが多くの場所で繰り返されているからだ。

 米国ペンシルバニア州西部の、かつて鉄鋼業で栄えた都市や町もそうした場所のリストに入る。今回の選挙では、いずれもヒラリー・クリントン氏を拒絶した。例えば、ピッツバーグの東に位置するカンブリア郡のジョンズタウンには、かつてベスレヘム・スチールの鉄道車両工場があった。1970年代後半には1万2000人を超える従業員が働いていたが、2007年に閉鎖されたときには390人を残すのみとなっていた。

 クリントン氏の得票の方が多かったピッツバーグは、国際的な都市は製造業を失っても立ち直ることができるという好例だ。この街の鉄鋼業は消えたが、ヘルスケアやその他のサービス業がその後を継いでおり、カーネギー・メロン大学の周りにその拠点が集まっている。しかし、ペンシルバニア州の小さな町はまだ痛みを感じており、トランプ氏はカンブリア郡で圧勝した。